ごめんねぼくは不器用だった

• この両腕がを抱き締めない理由は知らない。
  元より、そういう色恋沙汰には縁のない人間だ。
  上辺だけを撫でる様に、男女の機微は理解しているつもりだが、
  深く立ち入った事もない。
  
  
  思惑こそ違えども、距離を無理矢理に縮め、
  触れ、接触を繰り返し分かったような気になる。
  どうにもその戯れが肌に合わず
  (排泄という意味合いでは身体が求める程度では吐き出すがだ)
  つかず離れずを良しとしていた。
  
  
  もっと若い頃、それこそ十代後半から二十代前半の頃。
  このパッとしない人生中で最も輝いたであろうあの時代でさえもそうだ。
  
  
  あの頃、駆け出しだった読者モデル業界。
  ギャル系の雑誌で一瞬だけではあるが一世を風靡した。
  無論、全身日焼けし髪も伸ばし染め、
  正直なところ今の姿とは似ても似つかない有様だった。
  それでも需要はあり、あれやこれやと持て囃されていたのだ。
  
  
  しかし、やはり生まれ持っての性質は変わらない。
  一夜限りの宴が延々続くような幻覚に皆、魘されていた。
  このもその手合いで、あの頃はやはり皆、どうかしていたのだと思う。
  
  
  その幻覚は用意されたものだとは知らず、
  それでも性質に合わなかった白石は、すぐさま表舞台から姿を消した。
  どうにも手にし触れないと実感がわかない。
  一夜限りの宴は形がなく、それが余りにも不快だったのだ。
  
  
  その後はアパレルブランドの立ち上げを手伝ったり、
  イベサーの広告塔をやったりと時間を浪費していた。
  表舞台から姿を消して尚、プロダクションの社長は何故か白石を気にかけ、
  あれやこれやと世話を焼いてくれたもので食うに困る事もなかったわけだ。
  
  
  25を越えた辺りか。
  社長が新たに出店したカフェ＆バー。
  そこの雇われ店長を任されるに至った。
  
  
  あえて口にした事もない為、古参のメンバー以外は
  白石が雇われ店長だという事さえ知らないはずだ。
  
  
  
  「…」
  
  
  
  が転がり込んで来た理由は聞いていない。
  彼女の退廃した生活を顧みるに、誰も特をしないからだ。
  
  
  昔からを抱き締めてあげる事は出来ず、
  確か十代の頃は一度か二度、
  挨拶代わりに寝たような記憶もあるが最早忘却の彼方だ。
  その肌の感触さえ覚えていない。
  
  
  彼女は酷く奔放だし、それが魅力でもあったはずだ。
  モデル業を辞してからのはそれこそ乱れ、
  様々なパーティーに顔を出しゴシップニュースに取り上げられていた。
  それも数年前までだ。
  
  
  一晩限りの宴は一晩限りで繰り返される。
  場所を変え、人を変え、至る所で。
  歳を取りの情緒は確実に不安定と化した。
  
  
  身を切り売りする生き方しか知らず、だから身体は細切れに刻まれ続ける。
  感覚は麻痺して痛みこそ分からないのだろうが、
  最近では誤魔化しも利かなくなってきたのだろう。
  
  
  どうしても人肌を欲しがる。
  だけど、それは。
  
  
  
  「あんた達、喧嘩でもしたの？」
  「喧嘩するような仲でもねーよ」
  「一緒に住んでるんでしょ」
  「住んでるって言うか」
  
  
  
  あいつが転がり込んで来ただけなんだけど。
  そう言えば、相変わらず無責任な言い方するのねと、家永が皮肉る。
  相変わらずこの店の水割りは味もしねェぜと返した。
  
  
  この家永はプロダクションお抱えの美容タレントだった。
  今でいう美魔女の走りであり、家永ブランドの美容法や化粧品はバカ売れ。
  財を得た。
  
  
  
  「あの子はね、さみしいのよ」
  「俺そういうのよく分かんねーから」
  
  
  
  はこの家永がまだ芸能界を引退する前から酷く懐いていた。
  家永は家永で、基本的に美しいものが好きだ。
  己に懐くを可愛がった。
  
  
  その関係は家永が芸能界を引退してからも続き、
  事あるごとに彼女が開いた会員制のこのスナックに顔を出しているらしい。
  
  
  では何故、白石もここにいるのか。
  それはこのスナックが大いに関わっている。
  
  
  客寄せの意味を含め、このスナックは
  家永の店という建前になっていはいるのだが、
  実際の持ち主はプロダクションだ。
  要はキロランケの所有物という事になり、その関係で白石が顔を出す。
  
  
  この狭い世界は全てが繋がっている。
  逃れられない。
  そう。誰も。
  何からも逃れる事は出来ない。
  
  
  
  「俺には無理だ、そもそも柄じゃねェし」
  「あんたもいい加減、少しは大人になりなさい」
  「大人ねェ…」
  
  
  
  ガキじゃねェんなら淋しくなんてないはずだし、
  俺もあいつもこんな泥濘に嵌っちゃいねェんじゃねェの。
  
  
  家永の作る水割りは相変わらず味がしない。
  酒が入っているのか疑わしいレベルだ。
  
  
  きっとは、何れかの夜にふらりと又、戻って来るのだろうし、
  それにこちらも異論を唱えない。
  何事もなかった振りをし、
  己が只の傀儡だという事実から目を背け同じような朝を待つ。
  あの決して広くない部屋で、身体こそ交えずに。
  
  
  ねえ、これ全然味しないんだけど。
  白石がポツリと、呟いた。
  
  
  

  久々の大学生シリーズ

  という名の大学生ではない白石です

  私の中の白石は比較的ドライというか

  割とこんな感じに近い

  白石の友達？で家永を出してみました

  実は辺見ちゃんと相当悩みました

  
  
  

  
  2018/10/09
  
  NEO HIMEISM