きみとぼくの居場所









立会に行くからついて来いという我が上司の命を受け、
嫌々ながらも腰を上げた。
この男の部下という立場に未だ納得はいかないわけで、
だからといっていう事を聞かない選択肢も選べないし、
複雑な思いを抱いたまま今に至ります…。



我が上司でもある真鍋匠はあの日、
顔を合わせて以来一度としてあの夜の話を持ち出してこない。
助かったとは思ったが、モヤモヤとした気持ちはなくならない。
能輪のじいさんは仕置きのつもりでこの配置を行ったのだろうか。
そちらとも顔を合わせていない為、本意は分からないままだ。



それにしたってこの男の職場にスパイとして潜り込み、
ああいう事―――――酔った勢いでセックスをしてしまい、
指令を全う出来なかった自身としては
二度と顔を合わせたくない人物だった。
目に映る限り永遠にミスを突き付けられる。



あれ以来アルコールの類は一滴も摂取していないし、
自分で言うのも何だが禊の時間を粛々と過ごしているはずだ。
なので、なるはやで復帰お願い出来ませんか現役に。
とは思うが、どうにも直属の立会人の口添えが必要だと知り詰んだ。
直談判は厳しいだろ…。



「あれ?お前、謹慎終わったのかよ」
「うるっさい」
「お前の悪癖、賭朗で噂になってなくてよかったな」



途中で遭遇した南方に軽口を叩かれつつ、真鍋に続く。
そう。この男、何故かの悪癖を知っていた。
警視庁では1、2度顔を合わせただけの癖にだ。



しくじり戻ったの元を訪れ
(その時のといえば南方どころの騒ぎではなかった為、
誰だよコイツ程度の反応だった)
開口一番、お前本当にスパイだったんだな、
だなんて話しかけてくるものだから、これはこれで驚いた。
続き、酔って男漁りしてるからじゃね?
だなんて確信を突いてくるものだから、これは死ぬほど驚いた。
驚きすぎて、あたしあんたとはヤってないわよね、
だなんて恥も外聞もなく聞いてしまった程だ。



「絶対黙っててよね」
「それはお前次第じゃねェの」
「!」
「冗談だよ」



南方曰く、俺は酔っぱらった女が嫌いなんだよ、
との事で彼とは何事も致しておらず一先ず安心した。
まあ、それ以来彼は何かとこちらを気にかけてくれている
(というか馬鹿にしている)ようで、
楽に話をするような関係になった。
途中で南方が立会人だという事を知り、
もう嫉妬で気が狂いそうになったのも懐かしい思い出だ。



それにしたってうちの上司はスタスタスタスタと足早に歩きやがる。
行先なんて知らない為、はぐれたら面倒くさい事になるというのに。
小走りで彼の後につく。
真鍋の行先はの車だったようで
(あ、行先って割と遠いんですね)後部座席に座っていた。












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まさかが生きているとは思わず、
賭朗で遭遇した時には心臓が止まるんじゃないかというほど驚いたが、
何と言っていいのか分からずそのままになってしまった。
時間が経てば経つほどより一層言葉を選ぶ羽目になり、
結果これまで一度としてあの夜の話をしていないのだ。



あの夜の事をはどう思っているのだろうか。
暗黙の了解の如く口にしないルールでもあるのだろうか。
てっきり死んだと思っていた女が生きていたのだ。
それだけでなく、生きている上に自分の部下に舞い戻った。



今だって立ち合いに向かう車の運転をがしている。
ぼんやりとこのままの関係でもいいやと思ったりもする。
そんな事を考えている場合じゃないんだろうけど。
だけど、何故だか少しだけ詰まらないのだ。
何事もなかったかのように暮らしてはいけるのだろうが、
それでは詰まらないのではないかと思うのだ。



「…
「はっ、はい!?」
「…お前、まだやってるのか」
「(ヤってる!?)や、何を」
「酒は飲んでるのか?」
「…いえ」
「…ふうん」
「(ふうん!?)」



そう。
賭朗に入ってからというもの、
は酒を飲んでいないようだ。
確かにスパイとしては最悪の出来だったと思うので、
アルコールを禁止されたのだろうなと容易に想像は出来た。
自分でもそうする。



ミラー越しにの表情を探る。
相当動揺しているようで、
心なしか顔が赤くなっているようにも見えた。
どういう反応だ、それは…。



「皮肉だな、またこういう関係になるなんて」
「…はぁ」
「…俺は忘れてないよ」



窓の外を眺めながらぽつりと呟く。
簡単にいうと揺さぶりをかけた。
その刹那踏まれる急ブレーキ。



「…危ないな」
「すっ、すいません」



揺さぶりは簡単に成功したようで、
取り乱したがハンドルを切る前に腕を掴んだ。
彼女は振り返らない。



「そこ。左のビル。地下駐車場に入れて」
「たっ、立合いの時間が」
「あぁ。あれね。あれ、嘘」
「はっ!?」



あの時の話をしようかと、真鍋は淡々と口走る。
最早逃げる術も断る言葉も持たないは、
地下駐車場をノロノロと走りながら、
掴まれた腕の感触に心奪われていた。





週末ごとに揺れる、の続きです
当サイトでも指折りの最悪な主人公ですが、
主人公自身も最悪だと思っているのでイーブン(?)
ちょい絡み南方風味でお送りいたしました
それにしたってうちの長、よく嘘吐くよな

2015/10/16

NEO HIMEISM