あなたの悼みによって終わる
相変わらずここは空気が淀んでいるなと一人言ち歩く。
地下街にあるこの如何わしい通りには商売女が立ち並び、
入れ代わり立ち代わりエルヴィンに手を伸ばした。
売春宿が軒を連ねるこの界隈に唯一ある酒場が目的地だ。
売春宿が終わる明け方まで開いているこの酒場は、
この時間帯は売春宿の客連中が屯し、
明け方になると一仕事終えた売春婦たちがくだを捲くという最悪の環境になる。
そんな中、調査兵団の制服を身に着けたエルヴィンの姿は酷く目立つ。
失礼する。
そう口にし、酒場のドアを開ければ、騒々しい店内が一斉に静まり返った。
調査兵団団長の姿を見て静まり返ったのだ。
気にせず奥に進む。
カウンターに腰掛け一言、久しぶりだな、。
そう声をかけた。
カウンター内で酒を作っていた女は、
心の底からうんざりしたような表情で、いらっしゃいと返した。
この来訪は初めてではない。
最近どうだ、元気にしてるのか。
俺は最近疲れやすくてな、もう年ってことかな。
等等、エルヴィンは至極どうでもいい話を延々している。
別にあんただけに構ってられないのよと返しながら、適当な相槌を打つ。
こんな話をする為だけに、わざわざ地下へ潜って来たわけではないはずだ。
しかしエルヴィンは延々とその詰まらない話を続け、1人、2人と客が帰って行く。
それが大体三時間だ。
いよいよ店内に1人となった。
「…腕の調子はどうなんだ」
「それが本題ってわけね」
「いや、お前の顔が見たかったんだ」
「よく言うわよ」
の右腕には大きな傷跡がある。
シャツの袖を捲っている為、見え隠れするそれ。
手首から肘の上まで続く大きな傷だ。
「どうもこうも普通ね、暮らすに不自由はないし」
「戻らないか」
は腕のいい兵士だった酷く有能な兵士だ。
当初、憲兵団に所属していた彼女をエルヴィン直々にスカウトし、
彼が団長になったばかりの調査兵団に入った。
エルヴィンと共に幾度も壁画調査に出向いた。
この男は今も昔も、ずっと一つの目的を目指している。
頑なに、揺るぎなく。
そして―――――
「どの口がそんな…」
「お前の力が必要なんだ、」
「あんたを庇って負った傷よ、不自由はなくとも、もうあんな風には動かせない」
「上にいい医者がいる。そこまで回復したのが奇跡的だ、もしかしたら―――――」
あの日、エルヴィンを庇い落馬した。
背後には巨人が迫っており、何とか必死に応戦。
死にかけながらもリヴァイに助けられた。
巨人どもは群れを成し、後数秒遅ければ喰われていただろう。
リヴァイの馬に乗せられ壁の中へ戻った時には既に意識などなく、
助かる見込みは薄いと言われたらしい。
一週間ほど昏睡状態が続き、目覚めた時には右腕の感覚はなかった。
何故、生きているのかも分からなかったが、
次に又、壁の外へ行こうとは思えなかったのだ。
恐怖は身体も心も侵す。
調査兵団を辞め、結果、この地下街で酒場を開く事になった。
あそこなら家賃も安い。好きにやれよと口を利いてくれたのはリヴァイだった。
想像の半値以下でこの店を手に入れ一年だ。
ロクな通りではないが、少なくとも巨人に喰われる可能性は低い。
毎晩夢に見るのだ。
酒でも飲まないと、眠る事さえ出来ない。
「…」
ここへ来る前だ。
リヴァイと話をした。
偶々、出かけるところに遭遇したのだ。
地下へ行くとだけ告げれば、すぐに反応した。
『お前、まさかを…?!』
『あいつの力が必要だ』
思い出せるの姿は、あの瀕死の彼女であり、
次が呆けたように窓の外を眺める姿だ。
命が残っただけもうけものだぜと言えば、そうかしら。
は呟いた。
尤もだと思った。
『心が折れた奴は戦場には戻らねぇよ』
『いや』
思わず顔を見る。
『惚れた弱みに付け込んで、よくやるぜ』
完全にどうかしてやがる―――――
「無理よ、エルヴィン。私はもう壁の外へは戻れ無い。
未だに夢に見るわ、もう、私は」
心臓を捧げる事は出来ないのだと呟く。
「俺に」
「えっ?」
「俺に捧げてくれないか」
心臓も何もかも、お前の全てを俺に。
この俺に。
言葉を失ったの手を握り、お願いだと目を逸らさず囁く。
「相変わらず、酷い男、今度は私に死ねと言うのね」
「ああ、。俺の為に死んでくれないか」
男の眼差しは優しく、口調は兎角、真摯だ。
面と向かって死んでくれと口にしている男とは思えない。
握られた手から熱が伝わり、この身を侵すだけなのだ。
やばいエルヴィンです
私の中のエルヴィンは大体こんな感じで
俺の為に死んでくれと言いそう
リヴァイはそういう事言わないよね
2018/10/30
NEO HIMEISM