この心はもはや如何なる咎をも畏れない
まだあの彼と付き合ってるの、だなんて突然話しかけられ驚いた。
声の主はこのカフェの店員で、凄く雰囲気のある男だと一部で人気がある
(とはいえ、ここに来るサークル内でのみの人気だけれど)人だ。
ツーブロックの髪を気だるげにかき上げる仕草が極めて人気で、
サークル内で隠し撮りが出回った事もある。
ネームプレートで名前を確認したところ、彼は尾形さんというらしい。
それもグループLINEで一気に広まった。
大学側にあるこのカフェは人気だ。
昼間はカフェ、夜はバーとして営業をしており、
サークルの飲み会で使う事もあるし、
昼間には勉強をしたりと多岐にわたり利用させて貰っている。
ポイントだって相当溜まっているし、確かに常連の域だ。
だからって、どうして彼が話しかけてきたのか。
「…え?」
「ほら、しょっちゅう一緒に来てたろ」
「あー」
「この二週間くらい、ずっと」
「やだなあ、見てたんですか?」
思わず笑う。
「流石に目につくだろ」
「えぇ?」
「いつも泣いてたからな」
「えぇーヤダ、すっごい見てるんですけど」
この二週間、顔を合わせれば毎度別れ話で、
確かにその都度泣いていたような気がする。
いざ別れるとなると酷く寂しく思え、
意味もなく追い縋ったりしていたのだが、二日前に急に冷静になり別れた。
自分でも意味が分からないくらい、一気に目が覚めた。
正直、元カレはそんな の豹変ぶりにビビっていた。
「で、別れたの?」
「えぇー?」
「別れたんだ」
「てか、何でそんな事」
「俺が誘えないから」
「!」
「一応、気にするんだよそういうの」
冗談かと思い反射的に笑えば、携帯貸してよ、
尾形はそう言い(勝手に)LINEの交換を済ませた。
余りの早業に言葉もない。
何コレ。
何がどうなってるの?これ。
尾形は携帯を返さない。
「まだ連絡とってんだ」
「あ!ちょっと勝手に」
「やめとけやめとけ、あいつはお前の事、もう好きじゃねーよ」
「!?」
「このままじゃ、いいとこセフレだぜ」
「ちょっと!」
「どうせあれだろ」
夜中に急に電話かかって来て、
終電逃したから止まらせてーなんて言われて。
のこのこ部屋に上げちゃって、済し崩し的にセックス。
そんな感じ。
何かお前、そんな感じじゃん。
尾形のいう事は只の図星で、丁度昨日、その通りの目に遭った。
別れたはずの男は酔っぱらって夜中に訪れ、
まあまあ、だなんて言いながら慣れた手つきでこの身を弄る。
何だか流されるようにセックスしてしまって今だ。
何をやっているのだろうと、確かに考えていたけれど。
「図星だろ」
「…違うし」
「ほら、削除削除」
「!」
「で、この後暇だろ?」
俺ももうシフト終わりなんだと呟いた尾形は、
のテーブルの伝票を手に取り姿を消した。
まるで通り魔にでも遭ったようなショック状態だ。
白昼夢でも見たのだろうかと思わず携帯に手を伸ばせば
元カレからであろうLINEが山ほど来ているのだが、
それよりも『友達として追加されていないユーザーです』の表記に笑った。
久々の『現パロ大学生シリーズ』尾形
甘めの話を書いたつもりだったのですが
普通に考えたらこんな店員滅茶苦茶怖いね
2018/11/13
NEO HIMEISM