Undertaker whom I killed/私の殺した葬儀屋

• このオフィスから眺める展望は控えめに言っても最高だ。
  高層ビルの上層階に入るオフィスは社員たちにも評判が良く、
  まるで違うというのにアッパー層になったかのような錯覚さえ覚える。
  
  
  この街は人々が有象無象とひしめき合い、どこに誰がいるのかさえ定かでない。
  誰も他人に興味はなく、己の利益のみに執着する。
  それらを隠す為に友情だとか愛だとか、そういった言葉でひた隠しにしながら。
  
  
  元々、この首都が好きではなかった。
  一見、裕福そうな顔を見せるこの街が。
  
  
  
  「尾形さん？」
  「よぉ」
  「資料、お持ちしましたけど」
  「ああ、そこ置いといて」
  
  
  
  外資系のこの企業に入りこめたのは派遣社員だからだ。
  これまで幾度か使った事のある派遣会社の社員から連絡があり、
  どうしてもマッチングしたいのだと言われ面接へ向かった。
  
  
  その先がここ、この高層ビルであり、
  よくTVで特集されている海外の開かれたオフィス宜しい
  (社員がバランスボールに座りながら仕事をしているだとか、
  社員用のプレイルームがあったりだとかだ)そこで、
  煌びやかな女性社員たちに、にこやかな挨拶を受ける。
  
  
  採用担当と言った女は煌びやかな女性社員とは違い、
  少しだけ神経質そうな冷たい感じがした。
  理路整然と募集要項を伝え、ジロリとこちらを一瞥する。
  上昇志向の強そうなきつい眼差しだ。
  
  
  正直な所、この手のタイプは苦手だし、この社風も得意でない。
  お断りしようかとした瞬間、時給を提示されその意思は簡単に揺らぐ。
  破格だ。
  
  
  女は当然だとでも言いたげな顔で、その仕組みを騙り出す。
  曰く、この会社の女性社員は9割が派遣社員だという事、
  貴女のように可愛らしく若い女性ばかりが働いているのよと言う。
  含みのありそうな嫌な言い方だ。
  要は若い女しか採用していないという事なのだろう。
  お前と私は違うという意味合いも含まれていたのかも知れない。
  
  
  断る理由もなく、即決定した。
  
  
  入社してからも特に問題はなく
  (何せ皆、派遣社員だ。仕事の内容も一般事務の範囲内だし、
  サークルの延長のような形で和気あいあいと過ごしている)
  だからといって既に出来上がっているグループに入る事も微妙で、
  何となく一人で過ごす事が増える。
  
  
  中心グループは露骨に男性社員を狙っているような、
  肉食女子で形成されており、容易に近づける雰囲気ではなかったのだ。
  のように破格の時給に惹かれただけの女性陣は極めて珍しく、
  彼女たちもあえて母数を増やすような真似はしなかった。
  
  
  そんな を重宝したのは他でもない社員たちで、
  思ったより仕事をするじゃないかと
  (他の女性陣は、事あるごとにお願いしますぅ、だなんて
  当然出来る作業でさえ出来ない振りをする事も多かった)
  様々な庶務を任せ始める。
  尾形もその内の一人だった。
  
  
  が入社した時点で既に出世頭と黙されていた男で、
  異例のスピードで課長になったらしい。
  
  
  日々激務で日中にはオフィスに余り姿を見せなかったはずだが、
  今日は珍しく夕刻、丁度こちらの退勤直前に姿を見せた。
  尾形の登場により社内が一斉に色めき立つ。
  
  
  どうしたんですかぁ、だなんてすり寄る女性社員をすり抜け、
  尾形は の元へ来た。
  明日の商談に使う資料を部屋まで届けてくれという依頼だった。
  
  
  
  「では、失礼します」
  「あ、ちょっと」
  
  
  
  こっちに来てくれないかと尾形は言った。
  反射的に顔を上げ、のこのこと近づく。
  尾形はデスクに座り、デスクトップを眺めていた。
  にもそれを見ろと指さす。
  
  
  仕事の資料かと思い覗き込んだその時。
  画面いっぱいに映し出されたのは
  明らかに未成年だと思わしき少女の余りにも際どい姿だ。
  
  
  大人顔負けの過激なポーズで男を誘う。
  その、顔。
  
  
  
  「これ、お前だろ」
  「…」
  「お前の顔、どこかで見た事があるって思っててさ」
  
  
  
  いやだな、違いますよ。
  何言ってるんですか。
  
  
  そう言い逃げ出そうとした の手首を捕まえ引き寄せる。
  ぐいと引き寄せた尾形は耳側で囁く。
  
  
  別にいいんだぜ、俺は。
  お前がここで大声を出したって一向に構わない。
  尾形は続ける。
  
  
  だけど―――――
  だけど、お前のこれもみんなにばれちまうな。
  
  
  
  「何が目的です」
  「目的？」
  「こんな、脅迫ですよね、これ」
  「いいや」
  
  
  
  ファンに対して随分な言い草だぜと笑う。
  この過去を抹殺する為に何もかもをしたはずだ。
  
  
  の母親は貧困から脱する為に我が娘を売った。
  アイドルとして売り出す為に、とある事務所に所属させたが鳴かず飛ばず。
  金を産ませる為にまるで子供と思えないような過激路線を突っ走った。
  紐ビキニで際どいポーズをとったり、全身をローション塗れにしたり。
  小学校中学年くらいからそんな撮影を繰り返し、
  中学に上がる頃には着エロアイドルとしてかなりの知名度を得ていた。
  所謂ロリコン界隈での話だ。
  
  
  撮影会と称し、見知らぬ男達に際どい姿を撮られ、隠れて触られたりもした。
  しかもその頃、事務所の社長から性的虐待も受けており、
  精神的にも最悪の状況だったと記憶している。
  
  
  こちらを性的に見て来る数多の大人が気持ち悪く、
  全身を舐めまわす社長が死ぬほど嫌いだった。
  
  
  性的な玩具を使い、疑似フェラの撮影を強いた結果、
  出来上がった動画は飛ぶように売れたし、そのせいでクラスの男子にも知れた。
  元々、殆ど登校していなかった中学ではあったが、
  出席日数の確保の為に出向いた際、男子生徒たちの後期の目に晒された。
  
  
  いや、それだけではない。
  教師たちもそうだったし、女生徒達からは汚いものを見るような目で蔑まれた。
  
  
  どこにも逃げ場がないと察し、
  逃げる様に学校を後にした を待ち構えているのは件の社長であり、
  この地獄からは抜け出す事が出来ないのだと思った。
  
  
  しかし中三のある日、社長が淫行で逮捕され、状況は一変する。
  事件の発覚は援助交際かららしいが、
  その際に没収された携帯のログから に対する性的虐待も露呈し、
  社長と母親は逮捕に至った。
  
  
  これ幸いと、そのまま事務所も辞め転校した。
  別れて以来音信不通だと聞かされていた実父は、
  の安否をずっと追っていたらしい。
  
  
  そもそもは母親が浮気相手と逃げ、
  その際に養育費や母子手当目的で を連れ去ったとの事だった。
  父親の弁明の真偽はどうでもよく、何もかも全てを帳消しにしたかっただけだ。
  
  
  地方都市に引っ越し、高校では打って変わってギャルとなった。
  清楚さや幼さを出来るだけ排除し、
  自身を守るような濃いメイクと攻撃的な服装を選んだ。
  都会から越して来たギャルだと認識され、過去は清算したと思っていたのだが。
  何故、今更。
  
  
  画面では動画が流されている。
  あの忌々しい疑似フェラのシーンだ。
  男性器を象った玩具に生クリームを垂らしそれを舌先で舐めとらせる。
  
  
  あの男が幾度もやらせた行為で、
  何だってこの男は今こんなものを見せつけやがる。
  
  
  
  「…何のつもりですか」
  「やってよ、同じ事」
  「なっ」
  「こんな事しといて、俺の言う事は聞けねぇの？」
  
  
  
  いいじゃん、撮影はしないから。
  だなんて笑う尾形はあの頃の男達と同じだ。
  
  
  ここでやってもやらなくても、この男は何も失わない。
  只、秘密を抱えた己だけが失うばかりだ。
  今も昔も。
  
  
  椅子に座った尾形が早くやれよと顎で急かす。
  何が最善か分からない状態で、膝を、突いた。
  
  
  
  
  
  
  
  

  いや、あの…月9みたいな話を書こうと思ったんですけど

  これ完全にVシネとかの展開でビビるよね。。。

  オフィス現パロという事で、いけるかなと思ったんですが

  まさかのマジで違う感じに（！）

  いや、月9尾形は別で書きますので。。。

  着エロアイドルの過去がばれた主人公の話でした

  ニッチ過ぎる

  
  
  

  
  2018/11/20
  
  NEO HIMEISM