あの刃を以ってしても断ち切れなかった我々の運命を

• だって、あいつとは寝てたんだろうと、
  クリスが突拍子もなく呟いた事から全ては始まったのだと思う。
  何の前触れもなかった為に酷く驚いた。
  
  
  何の話、だなんてはぐらかしても同じ事で、
  確かにそれは過去の事実だし別に隠し立てするような事でもない。
  誰にだって過去はある。
  そうしてその過去を明言するもしないもその人の自由だ。
  
  
  それにしたってどうしてこんなタイミングでそんな事を言いだしたのか。
  いざターゲットを確保せんというところだ。
  無駄口は兎も角、そんな話をサラリと出来るような状態ではないと思うのだが。
  
  
  だけれど確かに様子がおかしいし、そもそもそんな事を言いだした理由は何だ。
  つい先刻クリスとは合流したのだが、もしや何か聞いたのではないか。
  若しくは、何かを見たか。
  ウェスカーならばやりかねないなと思えた。
  
  
  あの男は別にこちらを愛しているわけでもないし、どうこうというわけでもない。
  過去、幾度か寝た事と、現在の意味のない逢瀬。
  こちらの秘密を握ったウェスカーが戯れに手を出しただけだ。
  こうなってしまった以上、そんな秘密を守る道理もない。
  
  
  
  「会ったのね」
  「…」
  「何を言われたのか知らないけど―――――」
  
  
  
  これまで必死に守っていた何かはもうない。
  確かにこちらもクリスに言えない秘密を抱えているが、故に退けない。
  だったらここで、どうにか力づくにでも誤魔化す。
  
  
  黒く蠢く不可解な感情は仕方がない、死ぬまで飼い殺してくれ。
  
  
  
  「俺はお前が好きだよ、。愛してる」
  「私もよ」
  「だから、お前が何かを隠していても詮索はしない、しなかった」
  
  
  
  お前が自ら言うのを待っていたのだとクリスは言う。
  相変わらず嫌になる程、気真面目な男だ。
  薄々そうではないかと思っていたのだが、やはりクリスは知っていたのだ。
  
  
  過去。
  こうなる前。全てが起こる前だ。
  あの頃からはクリスの事が好きだった。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  あの頃―――――
  まだラクーン市警特殊部隊『S.T.A.R.S.』に所属していた時代だ。
  配属されすぐに恋に落ちた。俗に言う一目惚れだった。
  
  
  だけれどその頃から彼の隣にはジルがいて、
  特に誰もが公言するわけでもなかったがそうなのかと諦めていた。
  その辺りの薄汚れた心境など、未だに消化できないし口にも出せない。
  挙句、こちらはジルと仲がいい。
  そんな事、言えるわけがないじゃない。
  
  
  あれは確かクリスマスイブで、当然こちらはクリスを誘いたく、
  だけれどジルと仲良く話をしている様子に気後れし、
  そうこうしていればウェスカーから接待に付き合えという、
  よくわけの分からない指示を受け出かける羽目になった。
  
  
  今思えばその指示も意味が分からないのだが、
  まだ若い自分は特に疑う事もなくそれに従った。
  連れて行かれた先は会員制の有名レストランであり、
  そこに来てようやく騙されたのだと知ったのだが、
  だからと言ってその誘いを断る術も持たない。
  先方に急な予定が入ったと言われれば、そうですかと応える他なかった。
  
  
  何故ウェスカーとこんな場所で(しかもこんな日だ)
  食事をしなければならないのかと思いながら、味も分からない食事を頂く。
  ウェスカーは何事か喋っていたがそれも頭に入って来ない。
  
  
  直接的な言葉はないが、これは誘われているのだろうか、
  分からない。いや、でも、隊長に？
  
  
  デザートも終わり、退席のタイミングを見計らっていれば、
  それで、どうかな。ウェスカーが切り出した。
  
  
  
  「どうかな、とは」
  
  
  
  それは一体。
  「子供じゃないんだ、分かるだろ」
  「…」
  
  
  
  そこでだ。
  そこで、ようやく立ち上がった。
  申し訳ありません、のような事を口走ったと思う。
  テンパり過ぎてよく覚えていない。
  逃げる様に店を後にした。
  
  
  今、自身に起きた出来事をどう処理していいのかが分からない。
  酷くクリスに会いたかった。
  
  
  そのまま家に戻る気にもなれず、とりあえず署に戻っていれば
  (確かに、まだクリスがそこにいたら、という下心もあったはずだ)
  クリスとジルが連れ添ってどこかへ出かけている所を目にした。
  二人は仲良く談笑しながら、署の近くにあるダイナーに入って行った。
  
  
  
  「…だから言ったろう、」
  「！！」
  「俺を選ぶべきだと」
  
  
  
  立ち尽くすの背後、いつの間にかそこにいたウェスカーが囁く。
  酷く驚いたが、すぐ目と鼻の先に署があるのだ。
  そうおかしい話でもない。
  
  
  激しいショックに拙い脳は完全に思考停止。
  ウェスカーの右手がこちらの肩を抱き、簡単に誘う。
  つけさせていた車のドアはまるで奈落の入り口のように黒く沈んでいた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  結果、彼の目論見は達成されたといえる。
  ウェスカーはこちらを利用するべく近づいたのだ。
  転がり堕ちる速度は留まる事を知らず、自身も某組織の諜報員となった。
  染まったのだと自分でも思う。
  
  
  だから、あの洋館事件の後、彼が姿を消しホッとした。
  これで罪悪感を抱かずに済む―――――
  
  
  
  「本当の事を話してくれ、」
  「…」
  「俺はお前を」
  
  
  
  真実など何になる。何の意味もない。
  ジルが消え、傷心のクリスに近づいた自身に何が残されている。
  
  
  ウェスカーはきっと分かっていた。
  拙い恋心から、がどう動くのかも全て分かっていたのだ。
  こうして自身さえ裏切り心を切り売りする未来さえ手の内だ。
  
  
  あの男が何をどう喋ったのかは分からない。
  クリスは依然、真実を求めている。
  こんな、最初から嘘で、未だ変われない私なんてものの真実を。
  
  
  多分これから、愚にもならないような嘘を重ねるのだろう。
  そうしてクリスはそれを飲み下す。
  ウェスカーの残したどす黒く蠢く何かは互いの心に僅か染み込み、
  その存在だけを増す。
  同じ手段を繰り返せなくなる程に。
  
  
  嘘を吐く度に、愛しているさと嘯いたウェスカーの声が思い出されるのだ。
  あの男の思うまま知らぬ間にこの心は侵され、一心同体になったのだろうか。
  
  
  
  
  
  
  
  

  I LOVE クリス➁です

  好き過ぎてエモを追及してみました

  新年早々こんな話ですいません

  書いてて滅茶苦茶たのしかったです

  こういう湿度高めの話書いたの久々かも

  ジルは許すがジェシカてめーはだめだ

  
  
  

  
  2019/1/2
  
  NEO HIMEISM