古創すらいとしい

• こんな部屋は似合わないのだと、目前の男は言った。
  ここは摩天楼を見下ろすホテルの一室だ。
  壁一面が窓となり、遥か眼下に煌めく下界を一望出来る。
  
  
  この部屋を手に入れたのは、己の弛まぬこの力のおかげだし、
  まあ、確かに嘘喰いの力もあるが、
  恐らくそれがこの男は気に入らないのだろう。
  
  
  下世話な言い方をするのなら、
  こちらが何がしかを差し出したとでも思っているのだ。
  例えば身体だとか、心だとか、そういう極めてプライベートなものを。
  
  
  だからといってそれにとやかく言われたくもないのだし、
  別に誰がどこで何をしていようが構わないだろうと、こちらは思うのだが。
  
  
  ショウが最初に賭朗会員としてしのぎを削っていた時代は、
  門倉も丁度駆け出しの時期であり、
  自分よりも若い女が命を賭け争う姿を目にした時の高揚は未だに忘れる事が出来ない。
  まるで少女の横顔で老練然とした古株の会員を下し、何一つ残さぬよう奪いきる。
  
  
  若さ故の残酷さというか、驕りだ。
  それがありありと目に見え、
  そんな彼女の様に欲情する男も少なくなかったはずだ。
  
  
  しかし、この世界は時に憂鬱だ。
  門倉が一人前の立会人になった頃にはの姿は消え、跡形もなかった。
  どこぞの勝負で負けたという話は聞こえてこなかった為、
  何がしかのトラブルに巻き込まれたのではないかと噂された。
  
  
  そんな彼女が数年振りに姿を見せたのが、つい先日の事だ。
  最初は見間違いかと思ったし、周りの反応を見るに皆そう思ったようだ。
  どういう関係なのかはまるで見当もつかないが、嘘喰いの背後にそれはいた。
  昔よりも随分大人びた横顔で、久しぶりとも告げずそこにはいた。
  動揺した。
  
  
  
  「…そこ、座れば？」
  「いえ」
  
  
  
  まるで献身的に嘘喰いの世話をするその姿は、
  何かがあったのだろうかと勘ぐるには十分で、
  皆あえて口にはしないが何かしらの関係を感じていたはずだ。
  
  
  勝負の後、隣をすり抜ける嘘喰いが耳打ちして来た。
  一晩、どうぞ。
  声をかける暇もない。
  
  
  そうこうしていれば、当のが久しぶり、
  だなんて呟きながら近づいて来たもので、これは罠なのではないのかと勘ぐる。
  いや、恐らくそれは罠で間違いがない。
  そうして、それが罠だと分かっていても飛び込むのが男なのだ。
  
  
  連れて行かれた場所は都内でも有数の高級ホテルで、
  階ごとにエレベーターが変わるというあれだ。
  まるで見知らぬ大人のような立ち振る舞いをするを眺め、
  似合わねぇなと思わず本音が漏れた。
  現に今、そこにいるのはすっかり大人になっただというのにだ。
  
  
  ホテルの室内は驚くほど豪華で、夜景が一望出来る。
  こんな贈り物を日々与えられているのか。
  お前は。 「
  
  
  
  折角だから付き合ってよ、雄大」
  「いえ、私は」
  「これも仕事の内でしょ」
  
  
  
  がワイングラスを差し出す。
  
  
  
  「…」
  「どうぞ」
  
  
  
  貰いものなんだけど、いいワインらしいわよ。
  そう言うは、まるでお遊びのようになみなみと注ぎゆく。
  そのまま軽くグラスをぶつけ、乾いた音を鳴らし一口。
  グラスに赤い口紅がつく。
  
  
  その様に目を奪われた。柄にもないか。
  飲み口の柔らかい白ワインを一気に飲み干しグラスを置いた。
  が少しだけ笑った気がした。
  
  
  
  「髪、伸びたのね」
  「あぁ」
  「私はこっちの方が好きかな」
  「…」
  
  
  
  まるで友達のように笑いかけるに抱く違和感。
  このスイートルームと同じ紛い物だ。
  
  
  姿を消した間に何があったのかは想像する他ないが、
  これも只の女になったという事か。
  だけれど、
  
  
  
  「…随分、都合がいいんだな」
  「そんなのは」
  
  
  
  お互い様でしょうと囁くの指先に触れ、彼女の罠に飛び込んだ。
  いつどんな夜であれど、こうしてベッドに横になり目を開ければ同じ夜だ。
  
  
  理由も分からない交尾の後に襲うのは当然の倦怠感であり、
  まるで悪い夢に襲われたのだろうかと震える。
  
  
  確かにあの頃、こちらはこの女に心奪われていたが、
  果たしてこんな結末を望んでいただろうか。
  そこまで再会を望んでいたか。
  
  
  伸ばした腕の先にあるのはの足首で、
  彼女はベッドにもたれ煙草を吸っている。
  
  
  
  「…軽蔑してる？私の事」
  「いや」
  「相変わらず優しいのね」
  
  
  
  雄大くんは。
  
  
  
  「お前に会えりゃいいよ、俺は」
  「…」
  
  
  
  シーツの海の中で思う事は只ひとつ、この夜の理由だ。
  何故こんな真似をした。
  こんな真似をしても何にもならないなんて事、
  とっくにお前は知っているだろうに。
  
  
  煙草を吸っているは決してこちらを見ず、
  ぼんやりと窓の外を眺めている。
  嘘を吐いているのだろうと思ったが伝えない。
  そんな、余りに解り易い嘘は罪だ。
  
  
  くだらないでしょうと呟いたが一際大きく煙を吸い込んだ。
  何も言えないまま、彼女の横顔を見つめていた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

  昨年末の年末にまさかまさか

  嘘喰い夢スキーさんに出会う事が出来、

  よっしゃ嘘喰い復活させるんや～！と

  意気込んだ更新です

  メインで扱ってた頃、孤独だったな。。。

  雄大くんは髪を下ろした後が好きです

  発作中の話も書きたいとこ

  
  

  
  

  2019/1/2
  
  NEO HIMEISM