眠れる場所








帰ってくれませんかねェ、
等とつれない事ばかりを言う割に、
温かいコーヒーを出してくれる弥鱈の心中は中々読めない。
そもそもあたしだってまさか
弥鱈の部屋に行くことになるだなんて夢にも思っていなかったわけで、
今何故ここにいるのか理解出来ていない。
唯一はっきりと分かっているのは、
現在、浮気された情けない女が私だという事だ。



付き合って三年目の彼氏に浮気された。
どうも半年は続いていたらしい。
相手は元カノ。
発覚は本日。
現場に帰りたくなくて(よりにもよって、
どうして二人で住んでいる部屋に連れ込むのか、
まったく理解が出来ない)



とぼとぼと夜の街を歩いている時に、
高校時代の同級生であるこの弥鱈悠助と遭遇した。
卒業後まったく会っていなかった割に、
蹲ったの目の前に立ち、
泣いてるんですかぁ?なんて
デリカシーの欠片もない言葉を投げかけるこの男を見て、
弥鱈に間違いないと思った。



「まだ泣いてるんですかぁ?」
「泣いてる」
「そもそも、何で泣いてるんですかぁ?」
「それは…」



ポツリポツリと起こった事を言葉にすればその度に悲しく、
幾度も言葉に詰まる。
弥鱈は聞いているのか聞いていないのか分からない
曖昧な態度のまま相槌一つしない。
まあ、一人でさめざめと泣いているより、
誰かに話をしている方がよほど健全だ。



何故この男に遭遇し、
この男の部屋に来ているのかはまったく理解できないが、
どうせ部屋には戻れない身分だ。



「…それでェ」



可愛そうなさんはどうするんですかぁ。
弥鱈が口を開いた。



「…別れる…」
「本当ですかぁ?」
「だって」
「そういう人ほど、上手く丸め込まれたりするんですよねェ〜〜〜」
「なっ」
「俺が悪かった、お前だけだ、とか言われて…」



この男、人の携帯を覗き見でもしたのだろうか。
今まさにそのような内容のラインが分刻みで入ってきているところだ。



「図星ですかぁ〜〜〜〜??」



確かにその通りで、急に冷静になった。
少しだけ悲劇のヒロインになっていた自身に気づき、
急に恥ずかしくなる。



よくよく考えれば復縁はあり得ないのだし、
今日の今日まで彼氏だった男は史上最低な男だった。
平然と二股をかけ、家に女を連れ込み、
二人でいつも寝ているベッドでヤッていた男。
最悪だ。



挙句、現場に居合わせた彼女を追いもせず、
それでもラインでバカみたいな言い訳を送り続ける男。
そんな程度の言い訳でどうにでも出来ると思われているのだ。
それが何よりもムカつく。



「もう泣かないんですかぁ〜〜〜」
「泣かない」
「じゃあ、僕らも愉しみましょうよ」
「!」



しゃがみ込んだ弥鱈が急に目前に迫っており、少々驚いた。
どうせ部屋には帰れないし、眠れないし、
別に愉しみたいわけじゃないけど、
あいつだってきっとまだあたしの部屋に女といるんだし、



「言って欲しい事、言ってあげますよ」
「何…」
「なんで、あんなに優しい彼がそんな事をしたんでしょう〜〜〜」
「…!」
「どうしてあなたがこんなに酷い目に遭わなきゃいけないんでしょう」



かわいそうに。



わざと涙を誘う言い方をする弥鱈は
何を考えているのだろう。
又、じんわりを浮かんできた涙を指で掬い、舐める。
この男は昔からこんなだったっけ。
覚束ない記憶を探るが取り出せず、目を閉じた。







誘い弥鱈です
この主人公の彼氏が浮気をしている事も知っていたはず
こえーよ
だからといって付き合いたいわけではない

野良猫を拾う感覚で女を拾う男、弥鱈

2015/10/19

NEO HIMEISM