君を欠いて失いながら生きているよ

• 思い出としては最悪の類だと思う。
  宇佐美の記憶としてはよくない思い出になるはずだ。
  
  
  あの後、大丈夫だったー？だなんて白々しく声をかけてくる友達に、
  別にーだなんて返し適当に話を合わせる。
  正直な所、にしてみれば日常だ。
  日々相手が変わるだけでやっている事は変わらない。
  
  
  
  「結構手ぇ出すの早いらしくって心配してたんだよね」
  「へぇー」
  「ヤリ捨てされた子とか結構多いらしくてさ」
  「マジで」
  
  
  
  そういう事、後から言っちゃうんだ。
  腹の中で笑う。
  
  
  あれ以来、宇佐美から定期的に連絡がくるようになった。
  何故かは分からないが気に入られたらしい。
  どうやら付き合っている彼女には最高の彼氏を演じてみせているらしく、
  憂さ晴らしの相手として選ばれた。
  
  
  元々、性質の悪い男なのだ。
  よくない遊びを好む。
  
  
  の方はといえば、あの街の、
  バンド界隈の煩わしさから逃げるように宇佐美の誘いに応える。
  当然、宇佐美の事は何とも思っていない。
  
  
  洋平への消化出来ない感情のやり場はない。
  正直な所、何も考えたくないというのが答えだ。
  
  
  てっきり会ってセックスするだけの関係かと思っていたのだが、
  宇佐美は待ち合わせ外へ遊びに行く事を選んだ。
  これまでに余りない展開に驚く。
  
  
  宇佐美のテリトリーはこれまでがいた、
  あのライブハウス界隈でなく、もう少し都心の華やかなエリアだった。
  宇佐美の行きつけらしい、谷垣が行くようになったクラブとは
  別のクラブでよくない遊びをする。
  
  
  そのクラブはエモトラップのイベントが頻繁に開催されており、
  元々、余りEDMは聴かないだが、
  グランジ派生のエモトラップにはばっちりハマった。
  
  
  ダウナーな曲調に全身を揺らし、大音量に脳を痺れさす。
  このイベントには付き物らしい処方箋薬が飛び交っていた。
  何もかも全てを忘れさせる薬だ。
  
  
  強い酒でそれらを流し込みクラブの床で横になる。
  辺りは似たようなクズ達で溢れかえっており安心出来た。
  宇佐美とセックスは余りしなかった。
  効き目の時に勃起不全になるからだろうと思っていた。
  
  
  
  「あんた、こんな生活ずっと隠してんの」
  「言う必要なくね？」
  「彼女、読モらしいじゃん」
  「は、うざ」
  
  
  
  クラブの奥の方、ライトの下にしゃがみ込む。
  
  
  
  「俺よりお前じゃね」
  「何が」
  「そんなにハマっちゃって」
  
  
  
  ヤバイんじゃないの。
  何かに依存するという事は心が正常でないという事だ。
  も宇佐美もセックスに依存している。
  不特定多数との意味のないセックスに。
  
  
  自分でも何が満ち足りないのかが分からないでいる。
  昔からこうだし、変わる気もない。
  欲しいものはこの手にあるし、常に人よりいいものを手にしてきた。
  
  
  
  「俺は程度が分かってるけど」
  
  
  
  でも別に俺はお前の保護者でも何でもないし、
  ていうか彼氏でもないしさ。
  お前の面倒を見る必要も義理もないんだよね。
  こんな遊びに誘う奴がお前の友達なわけでもないじゃん。
  本当、バカな、女。
  
  
  の事は未だによく知らない。
  一度騙し打ちをしたが、その時の反応が他の女と違った為この悪い遊びに誘った。
  思った通りは拒否反応一つ示さずあっさりと受け入れた。
  
  
  これまで数人だ。
  寝た後に何となく気に入りこの遊びに誘った。
  その全てが今のと同じ状況に陥る。
  
  
  何かが足りない人間は一つの物にどっぷりとハマりやすい。
  そんな彼女らを見ながら己を見つめ直し、又、最高の生活に戻る。
  何の迷いもない、間違いない表の生活に。
  
  
  
  「立てよ、」
  「何で」
  「ヤりたくなったから」
  「へぇ」
  
  
  
  の手を引きクラブのトイレへ向かう。
  これが最後、との最後のセックスだ。
  
  
  どうしてこんな事を繰り返すのよと、
  特にこちらに興味のないが聞いて来た事がある。
  意味なんかねーよと返したがそれは嘘だ。
  
  
  不特定多数に適当に手を出す理由は求められたくないからだ。
  奪うはのいいけど少しでも奪われたくない。誰にも。
  大事な彼女だろうが、目の前のどうでもいい女だろうが同じだ。
  
  
  一番奥の個室に入り、ドアを閉める。
  便座の上に座ったが錠剤を舌の上に乗せた。
  ザナックスかと思ったが色が違う。
  
  
  お前、それ何。
  そう聞く前に飲み込んだ。
  
  
  の目はあっという間に光を失い、
  とろんとした眼差しでこちらを見上げた。
  頭に手を置き舌先で唇を舐めぐいと割り込ませる。
  口内を舐めまわせば舌先が僅か痺れる。
  
  
  四肢の弛緩し始めたの身体は重い。
  よろよろとした足取りで立ち上がりこちらに背を向けた。
  壁に手を付き尻を吐き出す。
  
  
  まるで獣のようなその姿が好きだ。
  セックスをするだけの生き物だと再確認できる。
  
  
  唾で濡らした指で肉をかき分け、半勃ちの性器を無理矢理挿入する。
  無論ゴムはつけた状態だ。こんな女に生は危険すぎる。
  緩々と動く内に性器はしっかりと固くなり好きなように動く。
  
  
  薬の回ったはここがどこかも分かっておらず
  喘ぎ声を抑えもしないが、狭いトイレ内だ。
  ガタガタと騒がしいし、外の音でどうにか掻き消されている。
  
  
  
  「おーい」
  「！」
  「うるっせーぞ」
  「悪ぃーすぐ終わっからー」
  
  
  
  隣の個室から声が聞こえ、ドンドンと壁が叩かれた。
  腰を止めずそう答え、すぐに射精を迎える。
  床に崩れ落ちたを前に身なりを整え鍵を開けた。
  
  
  すぐそこに男はいた。
  顔色の悪い、痩せた男だ。
  黒いパーカーのフードを被っている。
  
  
  
  「次どーぞ」
  「どーも」
  
  
  
  彼女からのLINEを確認しながら男とすれ違う。
  あれ、お前の女じゃねーの。
  すれ違いざまにそう耳打ちされた気がする。
  
  
  いや、違うっしょ。
  振り返りもせずそう返した。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  この場所にが来るとは夢にも思わず、
  最初は他人の空似だと思っていた。
  
  
  エモトラップはグランジからの派生で、
  バンド界隈から流れる人気も少なくない。
  浩平もその一人だった。
  
  
  あの街では洋平に勝つ事は難しい。
  バンドの解散も重なり、今後の方向性に悩んでもいた。
  
  
  そんな時、初めて聞いたエモトラップに衝撃を受けた。
  鬱屈とした精神面を綴る歌詞にダウナーな楽曲。
  普段通い慣れていたライブハウスから足は遠のき、
  少し離れた場所に点在するクラブへと居場所は変わった。
  
  
  この界隈は楽曲を提供する側もオーディエンスもドラッグを使用している事が多い。
  処方箋薬の乱用は問題視されてもいる。
  それくらい氾濫しているし、容易に手に入る。
  自身もすっかり虜だ。
  洋平は知らないはずだ。
  
  
  演者側としてこのクラブに出入りする浩平は
  ステージ裏からを見つけた。
  見知らぬ男と寄り添い壁際で完全にラリっている姿を幾度も目にした。
  そんな状態だからステージ上に浩平がいても気づかない。
  
  
  周囲の人間に隣の男の事を聞きある程度の事情を知る。
  どうせ今回も長くないだろ、そう言われたからでもある。
  トイレに二人して消えたタイミングで後をつけた。
  
  
  
  「…」
  
  
  
  個室の床にあられもない姿で横たわるは目を閉じたまま動かない。
  何かしら思いたいがこちらも服薬中だ。
  
  
  大した言葉も出てきやしない。
  意識のないの腕はだらりと重く力ない身体を抱えるのも一苦労だ。
  
  
  こんな所で何やったんだよ、俺も、お前も。
  ポツリと呟いた。
  
  
  
  
  
  
  
  
  

  現パロ大学生シリーズの

  バンドやってる二階堂兄弟の主人公です

  前回、宇佐美が手を出したとこで終わってたんですが

  クソみたいな展開に続きました

  セックス云々よりももう薬だよね

  処方箋薬の乱用は社会問題になっているので

  ダメ、絶対！

  忘れてるかも知れませんが、この主人公は

  洋平の事が好きという設定です

  
  

  
  2019/3/4
  
  NEO HIMEISM