泣いてもいいよと誰かが言った

背中のジッパーを上げてくれない、
はそう言いながら髪をたくし上げている。

そんなの俺に頼むなよとぼやくも、
潜入捜査なんだからあんたとあたししかいないでしょうと
至極、最もな事を言われぐうの音も出ない。

鏡の前でこちらを待っているは
別人のような顔をしていて柄にもなく照れてしまった。

普段は現場で任務につく事が多い為、
殆ど化粧はしていないんじゃないかと思う。

お前、そんな顔だったっけ。
ぽつりと呟いた。

顔が割れていないとピアーズに白羽の矢が立ち、
今回、この潜入捜査へ参加する事となった。
とりあえず今回はターゲット主催のパーティに潜り込み、
協力者を割り出すのが任務だ。

別にあたし一人でもよかったんだけどさ、
だなんてブツブツと呟いているはとても機嫌が悪い。
その理由は何となく分かっているが口にしない。

普段は一つにまとめている髪を下ろしたは
やはり知らない女のようで目する度に違和感を覚える。

鏡の中の彼女は濃い朱の口紅を引いた。
ジッパーを上げながらチラチラと覗き見ていれば、
何見てんのよと悪態を吐かれた。

それから大体三時間くらい経過したのだろうか。
任務自体は恙なく進んだ。
ターゲット達の密会も録画出来たし、ものの10分程度で完了した。

問題はその後だ。
だってこんなすぐに出て行ったら怪しまれるでしょ、
というの言葉に何も言えなかったからだ。
そうかも知れないと思ってしまった。
パーティに出される食事は美味かったし、酒もいいものを振る舞っていた。

「ちょ、お前」
「～～～～！」
「大丈夫じゃねーな…」

べろべろに酔いの回ったを連れ、どうにかホテルの部屋に戻った。
これまで幾度も飲んだ事はあるものの、こんなに酔い潰れた姿を見た事はない。
シャンパンを馬鹿みたいに飲み干していたからだろうか。

兎も角、は自立歩行さえ危うい状態になり、
ピアーズが肩を貸す事になったわけだ。

抜かりなく架空の夫婦名義で借りた部屋にはキングサイズのベッドがひとつ。
部屋に入った途端、はトイレへ駆け込んだ。
一通り吐いたのだろう。
多少、正気に戻ったが散々な顔を引っ提げて出て来た。

「…しぬ」
「お前、飲み過ぎなんだよ」
「うるっさい」
「お前ねー？」

俺に相当迷惑かけてんのに分かってないの、
そう言えども恐らくは余り聞いていない。
又しても、ジッパーを今度は下げてくれと言ってくる。
お前ねぇ、一応俺とお前って男と女なんだよと思うがやはり言わない。

だってこれは任務中だし、の様子は任務前からおかしいのだし、
少なくとも現段階の彼女は酒に酔っている。
だからこれは正しくないし、間違っている。

ジッパーの下ろされたの背は白い。
ああ、そういえば忘れていた。
こちらも、相当酒は飲んでいる。

「…どういうつもりだよ」
「…別に」

そういうのってわざわざ言わなくてもいいんじゃないの、
と呟いたはこちらを見ていない。
窓に映る彼女は目を伏せているからだ。

そんな投げやりな感じに身を投げられてもこっちは困る。
別に俺は、そんなにお前とやりたいってわけじゃないんだぜ。

強がった。
だって、お前は、

「…隊長の事が好きだったんじゃねーの」
「ちゃんと察しなさいよ」
「は？」
「こんな事してるんだから」

何があったか位、察してよとは言う。

いや、そんなの分かんねーよ、だってそんな
棚ぼたみたいな形でお前とセックスなんてしたかないし、
お前にだって理由はあるだろうけど、そんなのは俺にだって。
あるんだぜ。。

がクリスの事を好きだと知っていた。
それが憧れのようなものなのか、
それ以上のものなのかは分からないが漠然と把握していた。

「無理って直接言われたのよ、そういう風には見れないって」
「…」
「だから」

だからどうしたと言うのか。
そんな気持ちで身を投げ出すのか。
そうしてそれを抱くのか。

「別に、どうでもいいけどさ」
「…」
「俺には俺の理由があるし」
「…」
「俺はお前が好きだし」

だからこのチャンスは逃さないよと言われ、驚き視線を上げた。
ピアーズの腕が背後からこちらを抱きすくめる。

窓に薄らぼんやりとうつる二人の姿は
今にも消えてしまいそうで、余りに危うい。

何も返せずにいると、俺も酔ってるから。
まるで言い訳のようにピアーズがそう呟いた。

ゴリスに振られた主人公と
そんな主人公を好きだったピアーズです
相変らず素直に話を書けません
このゴリスは自分の部下と付き合わないというか
そう言う風に見る事が出来ないんだすまない、
的な事を言って普通に主を振ってます
ゴリスこの野郎
ジルにその相談しとるんかゴリスよ

2019/3/11

NEO HIMEISM