嘘吐きの真実








まるでこの世でたった一つだけの宝物のようだ。
真摯に向き合い、じっと目を見つめ睦言を囁き合う。
いつだってそんな戯言がとても好きで、
だからといって信じる事は出来なくて、
それでもそんなものにどっぷりと浸かっていたいと思っていた。



難しい事はとりあえず置いておいて、感情の赴くままに求める。
そんな、何にもならない非生産的な時間ばかりを重宝した。
誰かに出会い、言葉を交わし、名を覚え、関係を深める。
理を交わす。
そんなものだと頭では理解出来ているはずなのに、
まんまと魅入られ、心は簡単に奪われた。



それらが習慣に変わる前の恥じらいのなくなった時間さえ重宝し、
このまま時が止まってしまえばと半ば本気で思っていた。
どうしたらそんな奇跡が起きるのかと真剣に考えたくらいだ。
二人でどこかへ逃げ出せればどうか、だなんて
無責任な夢を思い描いてみたが、当然叶わぬ夢だ。
知っていた。



「…はさぁ」
「…」
「もう、お役御免なの」
「…」



いつだって意思に関係なく、物事は全て決まる。
四季が移り変わるように極自然に。



「…どうしたの、その、顔」
「…別に」
「まさか、本当に好きになったとか」



言わないよね。
貘は今、どんな表情をしているのだろう。
恐ろしくて見る事が出来ないでいる。
どれだけ季節が廻ろうとも彼は決して変わらない。
貘は変わらない。



「何?どういう事?」
「何も言ってないでしょ」
「セックスして情が移った?」
「やめてよ」
「別に初めてでもないでしょ」
「貘」
「畜生でさえ交尾するのに」



自分たちだけ特別だなんて思えないでしょ。
貘の影が広がり、をすっぽりと飲み込んだ。
この男が用意する舞台はいつだって完璧で、
いつだって彼の手で幕が引かれる。
演者としての自分は意思を持てない。



「そういうの、馬鹿にしてたじゃない」
「…そうね」
「俺と一緒に」



俺と一緒に。
もう一度そう言い、手を握る。



そう。俺と一緒。
だから、勝手な真似は困る。
勝手に心を奪われるだなんて、そんな真似は決して。



握った手、指先から動悸が伝わった。
少しだけ爪を立てる。
は微動だにせず、身体ばかりが側にいた。




美人局のような真似をさせる貘ちゃん(何それ)
セックスが何の意味もなさない男、貘ちゃんです(イメージ)

2015/11/01

NEO HIMEISM