歪曲した誠実の対価
お前、俺の嫁になれよと
やけに気軽な口説き文句を使ってきやがる。
天元はそういう男だし、
そんな天元にやたらと軽口を叩かれるもそういう女だ。
元々同期で鬼殺隊に入った。
天元は昔からああいう傾奇いた節があり、
異様に目立っていた事を覚えている。
自ら忍びの出自なのだとやたらでかい声で言っていたし、
その段階で嫁は三人いた。
目につくなという土台無理な話だ。
身の丈も随分恵まれた男だし、まあ、十分なほど色男だ。
記憶には残っていた。
次に遭遇したのはとある討伐の現場だった。
若い娘ばかりを喰らう男の鬼を狩るべく、とある飯場に向かった。
暮らしぶりもよくない貧乏長屋の密集する地域だ。
鬼に殺されずとも大人に殺される子供たちが山ほどいる地域で、
随分と神経を削った。
最初は別の隊員の現場だったのだが、
ヘマをしにもお呼びがかかった。
急いで向かえば、その途中でやたらでかい派手な男と遭遇する。
天元。
口にはせずとも名前が脳裏を過った。
現場はまさしく地獄絵図で、それは何も鬼がいたからというわけではない。
鬼自体はさほど人も喰っておらず、
まさにこれからといった様子の若手だったのだが、問題は大人達だ。
人生にくたびれた大人達は我が子を守りもせず鬼へくれた。
口減らしの意味もあったし、そもそもこの世にうんざりしていたのだ。
どう足掻いてもこの貧乏長屋から抜け出す事の叶わない身分なのだと、
だったら何故生きる。
辛く苦しい事しか残されていない先の長い人生を。
当然、子供達も諦めたような眼差しで、
と天元を見据えていた。
その様がひたすら許せず、
気づけば鬼の首は転がっていたし、
嘯く大人に掴みかかっていたのは確かにこちら側のミスだ。
感情の起伏を抑える事が出来なかった。
理由は簡単で、自身と似ていたからだ。
この諦めた眼差しを私は知っている。
そんなを諫めたのは他でもない天元で、
まあまあ落ち着きなさいって。あんたも可愛いところあるね。
そう言い割って入った。
至近距離で顔を覗き込まれ、心まで透けたかとゾッとした。
その日の晩は、近くにあった藤の花の家紋の家に立ち寄る事となった。
怪我もしていないのに必要がないと言うに対し、
やかましいと一喝した天元は無理矢理彼女を引き連れる。
早く天元から離れたかった。
天元は相変わらず誰に対しても偉そうで、
そこの主人にも何だかんだと指図をしていた。
こちらはまるで意に介せずといった様子で無視していれば、
ああ、別にいいよ、あれ、俺の嫁だから。
天元の声が聞こえる。
あの男のせいで同室になった。
どこまでも唯我独尊な男だ。
「…何のつもり、あんた」
「別によくね」
「何が」
「見た所お前、そう身持ちの堅い女じゃなさそうだ」
「てめっ」
やはり透けた。
「いいんじゃないの、俺ァ構わねェけど」
「触ったら殺すからね」
「はいはい」
同じように望まれない子供だったは、
年端もいかない頃に売りに出され、それからはお馴染の日々だ。
子供である事を強制され、そうして許されない。
女という性を叩き込まれ、いつしか生きる意味も失せた。
あの屋敷から逃げ出す事が出来たのも、嫉妬に狂った奥様の手筈で、
どこぞで野垂れ死にでもしてくれないかと嵐の夜に裏口から叩き出された。
逃走防止の為にほぼ監禁状態だった為、久方ぶりの外はとても恐ろしかったが、
死にもの狂いで逃げた。
山の麓にある小屋に入り込みまんじりとしていれば、
そこには隠居した元柱がいて、を生かした。
そうして今だ。
「嫁、三人もいるんでしょ」
「人数が問題なんじゃあねェんだよ」
「は?」
「俺は皆、平等に愛せるからな」
「何を言って…」
「だから―――――」
お前が俺を愛したいんだってんなら、
俺様はいつだって歓迎するぜ、
だとかそういう下らない事を至極真面目な顔で言う。
呆気にとられたは思わず笑ってしまい、もう既に天元の手中だ。
化粧を落とした天元の顔は相変わらず美しかった。
色男天元です
見た目がいいのだ
三人の嫁がいるという事は
まだほかにも可能性があるという事だ
(ちがう?)
2019/4/14
NEO HIMEISM