零れるまで、あと一雫

• 生徒指導室に呼び出されるのも習慣だ。
  何なら毎日呼び出されているような気がするし、
  余りにも頻繁に呼び出されるので、友達たちには、
  あんた冨岡の事好きなんじゃないの、だなんて軽口を叩かれるくらいだ。
  
  
  別にそんなんじゃないんだけど、あいつはあいつで結構面白いんだけど。
  だなんて言っても無意味だと知っている。
  皆、表面上の印象に左右されるのだ。
  
  
  体育教師兼生徒指導の冨岡は、
  鬼の冨岡だなんて仇名がつけられるくらい厳しい教師だ。
  朝は竹刀を持って校門に立っているし、校則違反は一切許さない。
  
  
  だからの髪の色も許さないし、スカートの長さも許さない。
  ネイルだってそうだし、メイクだってそうだ。
  
  
  
  「冨岡ちゃんさーあたしの事好きなの？」
  「冨岡ちゃんはやめろ」
  「だってもうあたしの顔見たら毎回こうじゃん？」
  「お前が毎回、校則違反をしているからだ」
  「いい加減、慣れない？」
  
  
  
  この冨岡という男は無口だ。
  だけれど、こちらが矢継ぎ早に話しかければそれなりに返答をする。
  
  
  教室が夕日に染まる下校の時間帯に生徒指導室で
  冨岡と過ごす時間を楽しんでいる。
  その事を、皆、知らない。
  
  
  
  「ねえ、冨岡ちゃんさぁ」
  「…」
  「彼女とかいるの？」
  「…」
  
  
  
  返事しないって事は、答えたくないのね。
  はいはい。別にいいんだけど、
  こっちだってそんなに聞きたいわけじゃないし。
  そういうのどうでもいいし。
  
  
  
  「あたしこの前、何か告られてさ」
  「…」
  「別に付き合ってもよかったんだけど」
  
  
  
  冨岡ちゃんの事が好きだからって断ったんだよね。
  そう言った瞬間の冨岡の顔。
  あの、ぎょっとした顔が好きでこの部屋に来てしまう。
  机に寝そべったまま笑いを堪えきれず、思わず声に出して笑った。
  
  
  嘘だよ、嘘。冗談。
  うけるんだけど、冨岡ちゃんヤバイ。
  超、動揺しちゃってんじゃん。
  
  
  この部屋は夕日に侵され赤く染まっている。
  悪戯心が疼き出し、ちょっとした駆け引きを
  持ち掛けたがるがどうにか抑える。
  この曖昧なふわりとした関係性は容易く壊れるからだ。
  
  
  別にどっちでもいいんだけど、
  あたしは別に冨岡ちゃんがその気になっても、ならなくてもどちらでも。
  好きとか嫌いとか、そういうのもよく分からないし、面白ければどうでも。
  
  
  
  「ごめんね冨岡ちゃん、怒らないでよ」
  「お前のそういうところ」
  「え？」
  「いいと思うよ」
  
  
  
  俺は。
  
  
  は、何それ。
  急に何？ウケるんだけど。
  
  
  まさか冨岡がそんな言葉を振りかざすだなんて思いもよらず言葉に詰まる。
  笑って誤魔化した。
  
  
  ヤダ、もう。
  冨岡ちゃんもそういう事、言うの意外過ぎ。
  
  
  だけれど今、この赤く染まった部屋で
  に背を向けている冨岡の頬は夕日でなく赤い。
  きっとこちらの頬も、無様に赤く染まっているのだろう。
  
  
  
  
  
  
  
  
  

  キメ学にてようやく冨岡義勇を書く事が出来ました

  フルネームで失礼します

  この主は何ですか、別に本気とかじゃなくて

  冨岡のリアクションとかが面白くて

  からかってる、みたいなアレなんですけど

  (冨岡ちゃ～ん、と言わせたかっただけです)

  最後の冨岡の台詞は、彼が必死に考えた反撃だと

  考えて頂ければ、、、口にした後に恥ずかしくなったみたいな

  
  

  2019/05/12