罪追（負）い人

• 自らの罪を認めないわけじゃあない。
  己の罪深さはとっくに知っていて、
  だけれどそれをどうとも思えないでいるのだ。
  だからこんな生き方をしている。
  
  
  溜まり場となっているクラブのオーナーである
  キロランケとは一月に一度会う。
  会う時は大体一人で、
  そういえば尾形以外は会った事がないのかも知れない。
  ふと思った。
  
  
  こちらのチンケな悪事を咎める事もなく、最適な場所を貸し出す男。
  みかじめを取られたりだとか、厄介事を押し付けられる事もない。
  
  
  それはそれで、キロランケの素性を知っていれば
  逆に何故だという思いに駆られるのだが藪蛇も御免だ。
  
  
  オーナーであるキロランケはクラブに顔を出さない。
  彼にとってこのクラブは大した意味を為さない。
  然程、金にもならない。
  
  
  幾つもある子会社の一つが運営をしていて、
  その会社も彼の名義ではないはずだ。
  
  
  キロランケはペーパーカンパニーを山ほど抱えていて、
  よからぬ金を何重にもロンダリングしているのだ。
  その辺りの立て込んだ事情を彼はあえて口にしないし、こちらも聞かない。
  
  
  
  「…よぉ、取込中かい」
  「いや、そうでもないさ」
  「そうは見えないが」
  
  
  
  埋立地に乱立するタワーマンションの一室は静かだ。
  この巨大な箱の中に何人の人間が住んでいるのかは分からないが、
  30畳を超えるリビングからは闇に満ちた東京湾が一望出来る。
  
  
  こうして顔を合わせ、この一月に起きた出来事の話をする。
  それに意味があるのかどうかは知らない。
  求められるままに与えているだけだ。
  
  
  広いリビングに備え付けられた白い革のソファーに座り、
  キロランケは話をしている。
  今回は珍しく先客がいた。初めての事だ。
  
  
  出直そうかと言えども、何を考えているのか分からないキロランケは
  自由にしていてくれと言う。
  それどころか、今回は俺の昔話でも聞いてくれよだなんて言い出す始末だ。
  キッチンからシャンパンを取り、こちらは勝手に始めた。
  
  
  
  「俺は―――――」
  
  
  
  若かった。
  あの頃、俺は確かに若く、そうして青かった。
  
  
  丁度あの頃、我が国は幾度目かの崩壊を迎え、
  その後の事はお前も知ってるだろう。
  
  
  小国に散らばった民族を狩る為に様々な対立が起こった。
  パルチザンとして混乱直下にあった某国を自力解放するべく紛争してたよ。
  我々には確かな志があり、目的があった。
  
  
  その頃だ。
  若く美しいパルチザンの女神と呼ばれたお前と出会ったのは。
  
  
  お前の名は四方に轟いていた。
  強く美しく勇敢で、何より強いカリスマ性があった。
  
  
  まだ少女だというのに、民衆を力強く導き、
  10も20も年上の大人達を従えていた。
  
  
  俺は感心したよ、そうして同時に恐ろしさも覚えた。
  キロランケの足元には後ろ手に拘束された女が蹲っている。
  
  
  不可思議な体制だと思い近くに寄れば、
  手首を拘束する縄はそのまま彼女の足首も拘束しており
  身を起こす事が不可能なのだと理解出来た。
  
  
  まるで生贄のようなその有様にゾッとする。
  女はキロランケに向かい顔を上げているから、
  どんな表情をしているのか分からない。
  
  
  
  「俺もガキだったが、お前はもっとガキだった。なあ、」
  
  
  
  その神々しい娘に恐れに似た憧れを抱き、
  差し伸べられた手を掴む以外の術は持たない。
  
  
  娘はその年齢にそぐわないほど大人びていて、
  子供の癖に中身は一人前の女だった。
  
  
  私を抱きなさいと酷く大人びた眼差しで命じるは
  キロランケに口付け断る術を奪う。
  
  
  言われるがまま幾度か寝た。
  今思い出しても酷く拙い抱き方でだ。
  キロランケのその愛撫にが満足したとも思えない。
  
  
  
  「お前は色んな大人の都合のいい傀儡だった。
  　女神に祭り上げられただけの哀れな娘だ。
  　奴らは信念や思想なんて何とも思っちゃいない。
  　私利私欲の為に混乱を利用しただけに過ぎない」
  「…今更、復讐でもしようっての」
  「お前には結局、一つの意思もなく、結局は俺たちを裏切った」
  「…」
  「知らないとは言わせないぜ、
  　お前の裏切りがその後のジェノサイドを加速させた」
  
  
  
  俺はお前を愛していたのかな、。
  今でも分からないんだ。
  
  
  お前の裏切りが露呈し、皆、狼狽した。
  指導者を失い途方に暮れていた。
  だけれど俺は―――――
  
  
  俺は何故だか少しだけ安堵していた。
  お前から逃れる事が出来るのだと、これでお前から解放されるのだと。
  
  
  それなのにお前の事が頭から離れない。
  ジェノサイド直下の市街地を駆け抜けながらも
  お前の事が頭から離れない。
  
  
  不思議なもんだ。
  あれだけ畏れたお前に心を奪われていたなんて。
  
  
  
  「私をどうするつもり」
  「何もかも捨て、身分も偽り普通の暮らしをしているだなんて、許されない」
  「…」
  「お前は暫く俺が飼うよ」
  
  
  
  そうして飽きたら売る。
  俺はそういう仕事をしていてね、。
  お前を欲しがっている奴らは今だって山ほどいる。
  
  
  あのジェノサイドを生き延びたお前の信望者は未だに残っている。
  俺のように。
  
  
  キロランケの指先がの唇を撫で、彼は僅かに微笑んだ。
  まるで笑わない深く黒い眼差しを讃えたまま。
  
  
  
  「…そいつは随分と純愛だな」
  「だろう？」
  「あんた意外とロマンチストなんだな」
  「そうだよ」
  
  
  
  俺はずっと夢を追ってるのさと呟いたキロランケはようやく立ち上がり、
  を跨ぎ尾形へ近づく。
  
  
  床に崩れ落ちたを横目に、
  とりあえずグラスを傾け乾杯を、した。
  
  
  
  
  
  
  
  
  

  すいません、最早創作に近い話なのですが

  リクエストのキロランケです

  す、すまない…

  そもそも金カムを書くのが超久々なんですけど、

  イマイチ思い付きが悪い時は基本的に現パロシリーズを選んでしまう

  故に今回は実録犯罪史シリーズからキロです

  初めて出したんですけど、他のシリーズ同様

  めっちゃ悪い大人ですし、今回は過去にパルチザンをしていた

  現、人身売買や武器の密輸などを取り扱う

  反政府組織のリーダー(表向きは資産家)です

  尾形も絡ませてみました

  後、このリク本当に消化に時間がかかってしまって

  申し訳ありませんでした

  リク、有難うございました！

  
  

  
  

  2019/07/07