生き急ぐには遅すぎる

• お前、そんなとこで何やってんだよ。
  そう言われてもこちらは散々吐き散らかした後だ。
  すぐに顔を上げる事も出来ず、声の主が誰かもわからない。
  
  
  実はここ最近、鬼を斬り捨てる度にあの独特の匂いにあてられ吐いている。
  そんな様を他の隊員に見られでもしたら不適格の烙印を押されかねない。
  
  
  だからこうして人目を忍んで吐いていたというのに不覚だった。
  気にしないでと呟き刀を手に立ち上がる。
  
  
  
  「実弥…」
  「何だ、お前かよ」
  「あんた、何して」
  「お前こそ―――――」
  
  
  
  の足元に広がる嘔吐物を目にして息を飲む。
  怪訝そうな顔をしたは
  (こいつはこいつでどうしてこんな顔が出来るんだ)ちょっと止めてよ、
  だとかジロジロ見ないでよ、そんな事を言っている。
  
  
  このは若くして鬼殺隊に入った女で
  (何ならこの俺よりも歴は長い)
  短命が常のこの組織の中で長く生存している珍しい隊員だ。
  
  
  長生きしているだけの能力は持ち合わせているのだが、
  自ら仕切るタイプでもない為、柱にならず
  永遠の補佐役として今は色んな柱に重宝される存在だ。
  そうして―――――
  
  
  
  「お前、これ…」
  「ちょっと体調悪くて」
  「…！」
  「他人の吐瀉物をジロジロ見ないでくれる」
  
  
  
  何考えてるのよと続けながらはたと気づく。
  ああ、まさか。この男。
  ふと実弥を見上げれば、顔面蒼白といった有様で、
  余りに驚いたのだろうか。口元を手で覆っている。
  
  
  デカい図体をして何をそんなに、
  言葉を失うまでショックを受ける事もないだろうに。
  
  
  確かにこちらもそんなつもりは更々なくて、
  そう考えれば何と表現していいか分からない真似をした。
  
  
  その結果がこの実弥の顔だ。
  バカすぎて笑える。
  いつ死んでも構わないと思っているからだ。
  
  
  
  「…あんた勘違いしてるわよ」
  「！！」
  「これは別に妊娠したわけじゃ」
  「調べたのかよ」
  「いや、調べたわけじゃ」
  「ちょ、来い」
  
  
  
  突然右手を握って来た実弥の力は強く、
  の身体は容易くバランスを崩す。
  そのまま実弥にもたれかかる形となった。
  
  
  それ以上の事をしているにも関わらず、
  何故だか酷く気恥ずかしくなりパッと離れる。
  
  
  ヤダちょっと止めてよ。本当そういうんじゃないから。
  勘弁して。
  
  
  このままでは治療班に診察をしてもらえと言わんばかりだ。
  だってまだこちらは何も、何一つ成し遂げていない。
  
  
  何故だか生に意地汚く未だ生き永らえてはいるものの、
  鬼殺隊の一員たるもの命を投げ出すべきだという考えはずっとあるのだし、
  のうのうと子を為し命を繋ぐ事が妥当だとも思えない。
  皆、命を投げ出しているのだ。
  
  
  
  「月のものはまさに今、きてる」
  「…」
  「妊娠はしてないわ、実弥」
  「だったら」
  
  
  
  どうした。なのか、どうして、なのか。
  
  
  
  「心配しないで、迷惑はかけない」
  「そういう事じゃ」
  
  
  
  そういう事を言いたいわけではなくて、
  だからって何を伝える？
  
  
  子供が出来たんなら戦えやしない、
  お前は身体の事を思って除隊しろ？
  
  
  大丈夫、心配するな。
  お前くらい俺が守ってやるから。
  
  
  瞬時にそれだけの言葉が脳裏を駆け巡ったけれど吐き出せず、
  そうこうしている内にはそそくさと姿を消す。
  こちらも言葉足りずだが、も大概だ。
  
  
  求めず、与えず、どうして逢瀬を続けるのか、その理由さえも欲さない。
  だからこんな事になってしまっているのだと、互いに分かってはいるはずだ。
  
  
  
  
  
  
  
  
  

  そんなにネタバレではないんだけれど

  何となくネタバレ風…というか

  実弥カッケ―という話です

  いいお兄ちゃんだよね…！

  只、いいお兄ちゃんすぎて自分の幸せとか

  自分の生活とか未来とか捨ててるよね

  だけど子供が出来たら大事にしそう

  そういう妄想の果て…
  

  ＊吐瀉物→嘔吐物訂正しました

  (ありがとうございました！)

  
  

  
  

  2019/07/16