何を隠そう私は一介の人間でございます。

• 祖母は善良な人間だった。
  普通の人には見えない何かを見る事が出来、
  厄を避ける術を伝えていた。
  人々を救うために生きていたのだ。
  
  
  彼女を慕う人々は多く、いつしか一つのコミュニティを形成した。
  救いを求める人々は今も昔も腐るほどいる。
  祖母は人々を決して疎まず、その全てを受け入れた。
  それが我が宗教の成り立ちだ。
  
  
  
  「様」
  「今日もお美しい」
  
  
  
  祖母は一人の娘を設けた。
  彼女は酷く俗物的で、己が欲望にのみ忠実な生き物だった。
  若くしてを身ごもるも、相手の男は誰だか分からない有様だ。
  
  
  そんな女だから、を産み落とし半年ほどで姿を消した。
  を育てたのは祖母だ。
  彼女は見知らぬ人々同様、献身的にを世話した。
  
  
  が五つの時にあの女は突如戻って来た。
  山ほどの借金と如何わしい連れ数人を従えてだ。
  
  
  祖母は悲しい顔をしたが何も言わず、全てを受け入れた。
  祖母の起こした宗教団体が毛色を変えたのもその頃だと覚えている。
  
  
  年老いた祖母は体力の低下と共に体調も崩しがちになり、床に臥す事が多くなった。
  その隙に奴らはコミュニティの乗っ取りを企て、
  それは容易に成功したわけだ。
  
  
  母親は新しい教祖となり、祖母を先代と呼び遠ざけた。
  あれには何の力もないが、
  止めどない悪意だけは両手に収まらない程持ち合わせていた。
  
  
  河原で拾ってきたような適当な石に値段をつけ、ご神体として売った。
  金を払えば払う程、庇護を受けられるのだと嘯き、
  教団は見る見る内に力を持った。潤った。
  
  
  数年後に祖母が死んだ。
  その頃には祖母を慕いついて来た信者はいなくなっており、
  代わりに母親に騙された哀れな人々と、
  母親の同類である搾取する人々が台頭していた。
  
  
  こちらに一切興味を示さなかった母親が急に近づいて来たのは、
  が12になった頃だ。
  
  
  まるで女神の如く美しいその見た目に利用価値を見出したのだ。
  とはいえこちらは為す術もない子供だ。
  彼女の言う通りに、彼女の思うままの虚像を演じた。
  
  
  
  「…様」
  「何だ」
  「万世極楽教の遣いが」
  「…何？」
  
  
  
  拝金主義として悪名を轟かせる我が教団は、
  それでいて救いを求める阿呆な人々の拠り所として存在している。
  
  
  どれだけ搾り取られようと救われると信じて疑わず、次々に金を運ぶ。
  カモの数は多ければ多い程いいが、余りに増えると目立ちすぎる。
  
  
  目下、敵対しているのが万世極楽教だ。
  最近、我が教団を脱会する不届きもの共が後を絶たない。
  調べれば万世極楽教に逃げているようだ。
  
  
  年老いた母親は半狂乱の有様で、
  連れ戻し拷問にかけるべきだどうだと熱心な信者共に滾々と唱えていた。
  あれはもう救いようがない。そんな事はとっくに知れている。
  
  
  では、私は。私はどうだ。
  笑わせる。私もとっくに救いようはない。
  
  
  祖母は善良な人だった。
  彼女は熱心にこの世界の理を教えてくれた。
  その中に万世極楽教の話もあった。
  それは、一体どういう話だったっけ―――――
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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  万世極楽教の遣いはを教団の母屋まで招いた。
  我々はこれより先に立ち入る事が出来ませぬ。
  そう言い、開けられた門をくぐり、ひたひたと一人歩いた。
  
  
  突き当りの部屋に教祖様はいらっしゃいます。
  遣いはそう言っていた。
  
  
  それにしても何極楽が入っているだけあり、
  何とも装飾の派手な建屋だ。
  
  
  不思議なほど音のしない廊下には自身の足音ばかりが響いている。
  ようやく突き当りに到着し、朱に塗られた襖を開ける。
  
  
  
  「ごめんねぇ、ちゃん。およびだてしちゃって」
  
  
  
  本来なら俺の方から伺うべきだったのに。
  殊勝な事を言いながら招きいれた童磨は身をたゆたえている。
  
  
  この男はそもそも、ハナから来るつもりなどなかったわけだ。
  曰く付きの教祖様といったところだ。
  それはまあ、こちらも人の事は言えない。
  
  
  
  「…私の名をご存知とは」
  「知ってるよぉ～！あ、俺は童磨。よろしくね」
  
  
  
  この男と対峙してからずっと動悸が止まらないでいる。
  万世極楽教の教祖の話は祖母から聞かされていた。
  
  
  祖母がまだ子供の頃から万世極楽教は存在しており、
  人々は安らぎを求めそこへ逃げた。
  若い娘が戻らない事に気づいたのは祖母だけだった。
  
  
  あれは人でない、わしは一度だけその男を見た。
  頭から血を被ったような、
  それでいて人々を安堵させる笑顔で、優しく囁く。
  
  
  祖母の言葉が繰り返される。
  目前の男は、祖母の話の中の男だ。
  
  
  この男……歳をとっていない……。
  
  
  
  「君はおばあさまに似ているね、」
  
  
  
  童磨がこちらを見ている。
  近づかないに向かい、おいでおいでと手を拱いた。
  一歩、二歩。歩みを進める背後で襖が音を立て閉まった。
  
  
  
  「君のおばあさまは賢い人でね、俺の誘いには決してのらなかったよ」
  
  
  
  君みたいに。
  
  
  ああ、私はしくじってしまったのだ。
  動悸は未だ収まる気配すら見せず、自身の吐く息の音が酷く煩い。
  
  
  童磨の瞳は七色に輝き美しいが、
  その眼に映るの姿も又、女神として崇め奉られている程に美しい。
  互いが互いに、中身の醜悪さを隠し通し余りあるほどに。
  
  
  
  「君のお腹は真っ黒で、あまり美味しそうじゃあないね」
  「…！」
  
  
  
  目前にいたはずの童磨の声が耳側で聞こえ、身の毛がよだった。
  童磨はクンクンと首筋の匂いを嗅いでいる。
  
  
  その刹那臭う強烈な死臭。
  反射的に童磨を振り払うった。
  
  
  
  「へえ、おばあさまの力は受け継いでいるんだ、意外」
  「あんた、何」
  「だったら視えるよね、。ようこそ、俺の城へ」
  
  
  
  童磨は両手を広げ笑む。
  その背後に蠢く無数の死体。
  苦しみに身を歪め、肉が所々削げ骨が見えている。
  
  
  喰われたのだ。
  瞬間にそう思った。
  そうすれば先程の死臭も理解出来る。
  
  
  思わず悲鳴を上げたの耳側、
  どうしたの？。
  そんな、今更。
  君も同じ様ことをしてる癖に。
  
  
  
  童磨が囁いた。嬉しそうに笑いながら。
  
  
  
  
  
  
  
  

  某フォロワーさんの呟きに

  どうやら私はやたら触発されるらしく

  今日髪を切りながら考えてた童磨話です

  当サイトでありがちな

  夢である必要性とは…？という話です

  教祖vs教祖という話…

  童磨は仲間を作ろうと余りしないよね

  本当、自分にしか興味がないんだから…

  
  

  
  

  2019/07/16