ただただ、空

やけに機嫌が悪いんだねぇ、
と徐に声をかけてきたのはヒソカだった。

こいつは随分と懐かしい顔だと思うも、今はそんな余裕がない。
一瞥だけを寄越し、すぐに視線を戻す。

昔からこの身体は誰の言う事も聞かない。
面白い程にだ。

生まれ落ちたその時には既に忌み子として疎まれ、
何故か不思議と死ぬ事だけはなく生き延びた。

生を受けたその瞬間には念能力を授かっており、
ロクに目も見えない、所謂生まれてすぐの段階でも四大行を習得しており、
己の存在が望まれていない事をまるで知っているかのように、
赤子の身で堅を使いその身を守った。

、と名付けられたその赤子は
(どうやらその、という名はその地域で
最も望まれぬ子、という意味を示すらしい)ひと時も泣かず、
より一層その不気味さを増した。

殺す事も出来ないを村人は疎み、祠に閉じ込めた。
祟りを恐れ供え物という形で食い物を与える。

その祠の中でジリジリとまんじりともせず歳を重ねた。
人々の恐れる眼差しはあの頃も今も変わらない。

そう。何故ならこの身は望まれず只、ひたすらに忌む存在だからだ。
だから、こうして、全てを壊す―――――

「振られたんだろ、又」
「…うるさいわね」
「相変わらず男の趣味が悪いね、」
「ヒソカ！」

邪魔をしないでと叫ぶこちらの腕を容易く掴む。
そんな真似が出来るのはヒソカ以外に知らない。

この男は昔から容易くこちらに近づき、そうして触れる。
まるでそのオーラを味わうかのように優しく、全てを奪い取るように強くだ。

「今回はどうした」

聞かせておくれよ。。

「どうもこうも、変わらないわ。
　お前は強いから、一人でも生きて行ける。
　あいつには俺がいないとダメなんだ、
　あいつはお前みたいに強くない―――――」
「ウケるね、それ」
「どいつもこいつも、好き勝手に」
「それは、彼？」
「！」
「へぇ」

周辺一帯を破壊し尽くしたはずなのに、
その瓦礫の影にあの男は隠れていたらしい。
どこまでも卑屈な男だ。

ヒソカはそんな男を目ざとく見つけた。
が気づくよりも先に男の側に近づく。

そう。毎度お馴染の展開だ。
ヒソカが一言、二言。何事かを男に話しかけた。

その刹那、返事を待たず首を跳ねる。
男の首から迸る血潮が弧を描き、只、ひたすらに美しい。

「…始末したよ」
「頼んでないわ」
「知ってる」
「私がこうなったのは、ヒソカ。あんたのせいね」
「…そいつは光栄だね」
「嘘吐き」

祠を開けたのは興味本位のヒソカだった。
禍々しいオーラに惹かれた。

偶々この辺鄙な村を通りかかった時に、
明らかに何かを隠している村人の様子だとか、
胡散臭い様子に心惹かれ数日滞在した。

嘘の匂いしかしないこの村には禁忌とされし場所があり、
そこに祠が置かれていたわけだ。
日に三回、村人が食い物を捧げる姿を目にし、
そこに生き物がいるであろう予想はついていた。

だから、が初めて目にした生きた人間はヒソカという事になる。
祠の隙間から覗いていた、恐れを帯びた眼差しでなく、
こちらをじっと見据える目。

『君、お名前は』
『…』
『いいね』
『…』
『気持ちのいいくらい』

憎悪に塗れたオーラだ。
男の唇が耳まで裂けるほど歪んだ。

殺しちゃいなよ。全部。
みんな。すっきりするよ。
ほら、ねえ。さぁ。

気づけば集落は壊滅し、足元は血潮に塗れていた。
空は広く大地は果て無い。
男の姿はとっくになかったが、その後も定期的に顔を見せるようになる。

「あんたはこうして、私に殺させるのよ」
「そうかな」
「でも、どうして」

何の為に。
そう問えば、美しいからだよとヒソカは言う。

又、嘯いて。
顔を背けそう言うも内心分かっている。
あの祠が開かれた瞬間の高揚、胸の高鳴り。

全てを塵にしようとが掲げた腕を背後からヒソカ握った。
指先を伸ばし、一本、二本。

君の、その憎しみは、とても、美しい。
数え、耳側で囁く。

大変お待たせ致しました

リクエスト分、HHからヒソカです
ヒソカ書いたの何時振りだろうか～～
祠に閉じ込められた、というくだりで
蒼天の拳のあのシーン
(*羅虎城が隠れてるとこ)が浮かんで
どうしようもなくなったという謎エピを置いておきます

2019/08/18