ここぞとばかりに息を潜める









どこに行っていたんだと問う伽羅は、
少しだけ眠そうな顔をしていた。
この男は日がな争いに明け暮れている為、
ゆっくり眠る事が余りない。
今はたまたまと共に行動している為、
数日に一日は深く眠る事が出来るらしい。
こんな信頼を得たいわけではないのだが仕方がない。
この、余りにも原始的な男は力量を図る術に長けている。



最初にと対峙した時でさえ、
女伊達らってヤツかと開口一番に言って退けたくらいだ。
あの時の伽羅の目を未だに覚えている。
射貫かれ死を覚悟したあの瞬間。
心の全てを持っていかれた。



まあ、今こうして生きているという事は
あの時命ばかりは持っていかれなかったという事で、
何というか命以外と言うか、身体はあっさりと頂かれた。
言い訳するわけではないが昂るのだ。
戦いの後というものは。




我ながら何をやっているんだと多少の自己嫌悪に陥りながら
彼の腕をすり抜け帰路につきはしたものの、
それ以来何かしらのタイミングで逢瀬を重ねてはいた。



そんな伽羅が賭朗を辞めたという噂を耳にし、
もう会う事はなくなるのかと思えばだ。
以前よりも頻繁にこの男が訪れるものだから
正直なところ度肝を抜かれた。



「あんたと一緒にいると、カーテン一つ開けられないわね」
「仕方ねェだろ。俺ァ色んな奴らから狙われてんだ」
「買い物に行くのだって難儀よ」



2ブロック先のスーパーに行くだけなのに、
行きと帰りで三人に襲われた。
一人でも逃せばこの部屋を引き払わなければならなくなる為、
否応なしに殺さざるを得なくなった。
平和な世界を夢見ているのにまったくもって不思議だ。



「腹減った」
「ちょっと待ってて」
「!」
「え、何」
「ちょっと見せろ」
「え?」



紙袋から品物を取り出しているというのに、
伽羅が急に右手を掴むものだから掴んでいたオレンジが床を転げた。
どうやら伽羅は割れた中指の爪を見ているらしい。
二人目の男を殴った際に出来た傷だ。



「痛いんだから触んないでよ」
「怪我してんじゃねェよ」
「ええー」
「ダセェ」
「あんたのせいなのにー」



今こうして二人で緩く過ごす時間が永遠だとは到底思えない。
伽羅の生き様にこんな時間は馴染まないはずだ。
求められないはず。



そんな事は口にせずともとっくに互いに気づいていて、
いつ来るか知れない別れを覚悟している。
爪どころか指ごと、腕ごとなくなってもおかしくない人生だ。
自身の業くらい理解出来ているつもりだが。



「それにしたって優しいのね」
「うるせェ」
「より好きになりそうよ」



今しかないとハッキリわかるのだから、思う事を全て言葉にして伝える。
それでも優しい彼はあえて気づかない振りをし、
どうにかこの束の間の泥濘を壊さないように抱き締めるのだ。



伽羅久々に書いたー
劇中、屈指の優しさを持つ男

2015/11/14

NEO HIMEISM