良識を気取った大人の嘘

• 相変らず汚い事務所ね、と呟いたは溜息を吐いた。
  蠅庭解術事務所は基本的に客の来ない事務所だ。
  事務所というより、じぐざぐの住処と言った方が正しい。
  
  
  入ってすぐの客室にはじぐざぐの洋服が散らばっているし、
  事務所は生活感溢れる雑多さだ。
  衣食住の全てをここでほぼ賄っているのだから仕方がない。
  
  
  デスクに並ぶ空き瓶を袋に入れながらブラインドを空ければ、
  ソファーに寝転んでいたじぐざぐが眩しそうに顔を背けた。
  
  
  半年前までは賃貸マンションを借りていたはずだが、
  いつの間にかここに住み着くようになった。
  彼なりの理由があるのかも知れないが、
  こうも雑多な室内を見せられれば知りたくもなくなる。
  
  
  同業者でもあるはこうして週に一度くらいの割合で
  じぐざぐの事務所を訪れている。
  
  
  自身は解術も呪殺も行う為、広義の同業者という事になる。
  この男のお目付けを言い渡されているからだ。
  
  
  の父親はじぐざぐに術をかけた張本人だ。
  彼が所謂『真っ当』になったかどうかの確認を言いつけられている。
  これも仕事の一環なのだと割り切っていやいややっています。
  
  
  ソファーで寝ているはずのじぐざぐは一人言をずっと呟いている。
  視線を向ければ目は閉じているのだから、
  起きているのかどうかは分からない。
  
  
  どうやら又、女と別れたらしい。
  じぐざぐはこういう男だし、見た目も悪くない為モテる。
  とっかえひっかえというわけではないのだろうが、
  そのサイクルは早い。
  だからといってどうした、という話なのだけれど―――――
  
  
  
  「生きててよかったなんて思った事ないですけどね、
  　数秒くらいの温もりで勘違い出来るんなら上等じゃありゃしませんか」
  「あんたが好き勝手にフラフラしてるからでしょう」
  「そんな。酷い」
  
  
  
  じぐざぐのいる方に近づき、
  床に落ちている衣類に手を伸ばした瞬間、掴まれた。
  視線を向けた。彼はこちらを見ていた。
  
  
  
  「もう終わり、ですって」
  「あんたの為に流した涙って本当、無意味ね」
  「さんのせいですわ」
  「…」
  
  
  
  わかってますやろ。
  人は何も改めないし顧みない。俺もあんたも。
  
  
  
  「流石にそれは無理、父さんに顔向けできないでしょ」
  「…」
  
  
  
  急に現実に引き戻されたじぐざぐは心底嫌そうな表情のまま、
  急に父さんとかいうのやめてくれますー？
  雰囲気台無しですわ。
  勃つもんも勃ちませんわ！
  萎え萎えですわもう！
  散々叫び二度寝の体勢に入った。
  
  
  いつもだ、いつもそうで、こうやってまた元の生活に戻る。
  何食わぬ顔をして、不安定な足元のまま。
  
  
  
  
  
  
  

  『蠅庭のじぐざぐ』より

  『斎藤じぐざぐ』さんです

  じぐざぐ、って平仮名なんだね

  ずっとカタカナだと思ってたよ

  ワニィ先生の短編集は粒揃い過ぎたので

  とりあえず全部コンプリートしたいと思ってます

  最初はじぐざぐ
  

  
  

  2019/10/23