挑発か誘惑か








俺に近づくんじゃねェと何度言おうが
相変わらずの調子では近寄って来るわけだし、
あの軽薄な感じも肌蹴た胸元も何一つ変わらない。
馴れ馴れしく腕を回してくる所だとか、
あり得ない程の距離感で囁いてくる間抜けさだとか。
そういうものの全てがムカついて仕方がなく、
そう考えるとトータルでやはり自分は
が嫌いではないのか、そう思うのだ。



今だって久方振りに顔を見せた癖に、
馴れ馴れしく首に腕を回し
無理矢理に距離感を縮めようとしているのだし、
上目遣いで瞬きを一つ、二つ繰り出す。
こいつはそういう女で、だからこういう女なのだ。



「俺に触るんじゃねェよ」
「久々だってのに、どうしてそんなに冷たいのよ」
「俺は別に会いたくないもんで」
「じゃあ、他の人のとこに行くわよ」



そう。だからこの女はそういう女で、
別にこちらがどうこうするような女ではない。
眼帯をした方の耳側で続けられていた囁きは勝手に終わり、
ふいにの腕が離れる。
改めて見つめた女の顔。何ら変わらないこいつの顔。
ぷっくり膨れた唇の隙間を動く赤い舌、見透かしたような不敵な笑み。
その華奢な腕が離れる前に捕まえた。
当然の眼差しで振り返る。
こいつは…。



「何よ」
「本当、最悪だな、お前」
「相変わらず素直じゃないのね、雄大」
「名前で呼んでんじゃねェよ」



門倉さんだバカが。
こんな女だと頭でも身体でも嫌と言う程分かっているはずなのに
手放せないでいる。
そんな自分が一番間抜けだとは知っている。



「明日の朝には発たなきゃいけないのよ」
「相変わらずお忙しい事で」
「そんな最中、あんたなんかに会いに来たんだから」



感謝してもいいくらいよとは囁く。
いつだって今だって、前回だって
うっかり出来心でだなんて言い訳が口を突く。
誰に対しての言い訳かは分からないが、
いつだって誤魔化すためにそう言う。
誰にでも、にでも、自分自身にでさえも。



「…で、俺の他に誰に会った?」
「銅寺くん」
「…」



心をざわつかせる方法もすっかり熟知しているわけで、
企み一つの笑みを見つめ溜め息を二つ。
この女が明日向かう予定の行先を考えた。





雄大くんを焚きつける為に
銅寺の名前を出すのはとても有効だと思います
この主人公は立会人ではなく、掃除人Aくらいで
明日の予定は能輪のじいさんのお伴

2015/11/14

NEO HIMEISM