なにもおまえが正しいからじゃない
その男は突然現れた所謂新顔というやつで、
身元不詳の人間が多いこの街では特に珍しい話でもないのだけれど、
その登場の仕方がやけに劇的で印象に残っていた。
この街は複数のマフィアが陣取る治安の悪い場所で、
大通りには赤窓が並ぶ一帯や四六時中酒の飲めるクラブが立ち並んでいる。
細路地に入ればそこはもう完全なるアンダーグラウンド。
違法ドラックの売買や不法な強制労働など無法地帯もいいところだ。
こんな場所に身を費やす己も負の連鎖から抜け出せない人種の一人で、
唯一の救いは顔も知らない両親のどちらかが、
否若しくはどちらともが美形の類だった事だろう。
恵まれた容姿は金になる。
この街でも最高級の店で働き、
マフィアの女となる事で身の安全を手にした。
当然そんな生き方は望んじゃいなかったのだけれど、
金と力を持つ男達は圧倒的な暴力を盾にこの身を搾取する。
抗う術など持ちえなかった。
男は自らの手の内にいる女をひけらかす事はしても、
その身を売る事は許さなかった。
故にはこうして赤窓を見下ろす場所から薄汚い街並みを眺め、
裕福な客たち相手の会話を嗜むのだ。
その日はマフィア同士の大きな会議が行われるという事で店の客足は遠のき、
ボーイたちが早じまいするかと話していた。
どうでもいいから早く決めてよと呟いたは
そのまま店の裏口へ向かい、そのまま外へ出る。
相変わらず薄汚れた空気が充満している。
空を見上げても星一つ見えやしない。
煙草をくわえ火を付けようとした時だ。
銃口をこちらに向けた男が近づいて来た。
見知らぬ顔だ。新参ものか何か。
この街の人間でない事は確かだ。
「お前、ドン・コローネの女だな」
「…人違いよ」
「怪我したくなきゃ、大人しく言われた通りにするんだな」
「…」
この世界に身を置くという事は、厄介事に巻き込まれるという事だ。
そうしてそれらから逃れる術を未だ持ち合わせていない。
一息深く吸い込み、ふう、と吐き出す。
その時だ。
「おい、お前」
「!」
「助けてやろうか」
「何だ、てめェは」
路地の奥から一人の男が姿を見せた。
こちらも見知らぬ男だ。
黒い髪をした、青い目の男。
若い男だ。
「あんたに助ける事が出来るってのかい」
「あぁ」
「見返りは」
「そうだな」
俺を雇ってくれよと、男は笑った。
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男―――――
17号はその言葉通りにを守り、
その話はすぐにボスの耳へと運ばれた。
彼がどういう反応を示すのか不安ではあったが、
ボスはこの男の事を存外気に入ったようだった。
17号を専属のボディガードにしてくれというの願いも
すんなりと受け入れられた。
それがどういう意味合いを持つのかは分かっていたはずだ。
だからこうして17号と同じ部屋にいる。
「あの男は、お前の所有者じゃないのか?」
「そうよ」
「いいのか?こんな真似して」
「彼は私を所有してるだけ」
彼には家庭があるし、
私以外にも女はいるのよ。
この街では生まれが全てだ。
自身、最低の生まれではあるが
恵まれた容姿を生かし何不自由ない暮らしを手に入れた。
それが仮初の生き様だと知っている。
いつまでも続く道理はない。
男達から貢がれた宝飾品を雑に投げ、上げていた髪を下ろした。
「軽蔑した?」
「いいや」
「興味もなさそうだものね」
「そんな事はないさ」
そういうのも人間らしいんじゃないか、と17号は言う。
彼の言葉はいつだってそう収まり、
ちっとも自身には興味のないまま、
人間と言う生き物に対する理解だけを深める。
どういうつもりか分からないまでも、
一瞬の安堵を得る為に偽りの温もりを求める自身は間抜けなのだろう。
その愚鈍さでさえ彼は、人間らしいんじゃないかと受け止めるのだ。
17号夢です!!!!
DB超ではまさかの既婚
GT~超の間に何があったの!?
という事で、この17号はセル後の放浪記
GT~超の間の話です
2020/2/03