とりあえず今メメに出来る事は、
を抱き締めてあげる事だけだ。
言葉を交わそうともは反応を示さないし、
心を交わそうとも彼女はこちらを見ない。
だから、どうにか体温を示したく、
言葉もなしに抱き締めるのだ。



昔馴染みのこの女は、いつからこうなってしまったのだろうか。
そんな、今更考えてもどうしようもない事を延々考える。
地元では有名な名家だったの実家は、



世継ぎを次々と失くし、館と共に風化する一方だ。
大正モダンをそのままに残した大きな館は、
今、尚その姿を保つが、まるで人気がない。
昔は数十人の使用人がいたはずだが、
今となっては一人の老婆が身の回りの世話を行っている。
数えきれないほどある部屋も半分以上が閉められ、
この時間にはメメとだけが存在するのだ。



まるで反応を示さないは、
深夜二時になると少しだけ変わる。
虚ろな眼差しに僅かばかり光が灯り、正気に戻るのだ。
その僅かな時間を心待ちにし、
今こうしてを抱き締めている。



この家に代々憑りつく怪異の仕業だという事は分かっているのだが、
肝心の怪異が中々姿を現さないもので、対応出来ずにこんな状態だ。
は怪異に心を奪われてしまった。



あの日、突然鳴ったベル音を今でも覚えている。
見知らぬ番号からの着信。
普段なら出ないのに、何気なく取ってしまった。
その刹那聞こえた、懐かしい声。
メメ。
女の声はまず名を呼んだ。
助けて。



彼女はその瞬間、確かに助けを求めていた。
他の誰でもない自分に。



「…おはよう」
「メメ…」
「昨日振りだね、
「まだいたのね」



心の戻ったは連れない言葉を口にする。
半ば心は浸食されてしまっているからだ。
このままでは半月も経たずに、
怪異はを憑り込んでしまうだろう。
そんな事は許せないんだ、俺は。
そればかりは許せないのさ。



「震えてるね」
「どうしてかしら」
「恐ろしい?」



が顔を上げた。
よく分からないといった表情でこちらを見つめる。
知った眼差しで。
だけれどすぐに心は再度失われ、
抱き締めるばかりの時間の繰り返しだ。



怪異を見つけだす事が出来れば、の心は戻るのだろうか。
心は戻っても気持ちが戻らなかった場合、
いっそ自身がその怪異になりたいとさえ思えた。



俺は君の心を食う化け物になれないかな。







夢の一部のように


黙ったきりのきみ






・とりあえずとても古くて恐ろしい怪異に呪われた家系
・何らかのキッカケによりその怪異が活発化
・一族が続々と死んでいく
という怪異の集大成みたいな一族です

2015/11/23

NEO HIMEISM