僕の言葉は



どこまで無重力でいられる?








煙草をくわえたまま火もつけずにカウンターに突っ伏している。
まるで納得の出来ない事柄に縛られ頭がパンクしそうなのだ。
道理でいけば簡単に話は済むのだが、
如何せん対人となるとそうもいかず、こうして頭を悩ませる。



詳しくは知らないまでも、
の事を多少知っているマスターは
気づかない振りをしてくれているわけで、
今しがた新しいジントニックが差し出された。



「…遅い」
「悪ィ悪ィ、野暮用が入ったんだよ」
「そうですか…」
「俺、スコッチ、ロックで」



二時間前から待ち侘びていた男がようやく隣に座り、
ここでようやく口火を切るタイミングが訪れた。
この店にはと巳虎以外、賭朗の人間は訪れないはずだ。
何故ならこの店を紹介したのがだからだ。
賭朗に入る前から通っている馴染み深い店。



「で、話って何だよ」
「えぇっと…大変言いにくいんですけど…」
「はァ?そういう話?嫌なんだけど」
「もう、やめよう」
「えぇ?何で?」
「何か、やり辛い」
「えぇー」



この巳虎との関係が果たしてどういうものなのかは
未だに理解出来ずにいる。
只、この巳虎とは明確な肉体関係が成立してしまった。
何がきっかけかだなんて思い返したくもないし、
正直なところ覚えてもいない。



只、この巳虎との距離がやけに近づいている事実や、
何故知れたか分からないが、
一々絡んでくる門倉達を見る限り、
きっとこれは特別な関係と呼ばれるものなのだ。



「だってお前、今更じゃねェか」
「今更って」
「これっきりにしたってよ、どうせもう知れてんだぜ」
「…!」
「いっそちゃんと付き合うか?」
「えぇ…」
「何でそう嫌がるかね」



元々、この女はこういう女だ。
巳虎に対しての態度は最初からこういう不安定な感じで、
こちらが何をどうしようとも一向に距離は縮まらなかった。
だからあの夜はとても驚いたのだ。
今でも何故ああいう事になったのかはキチンと整理出来ていない。



「これっきりになったら」
「…」
「俺、色々喋っちゃいそう」
「!!」
「そっちのがマズくね」
「あんたね…」
「なァ?マスター」



空になったグラスを軽く揺らしながら巳虎はそう言い、
相変わらずのマスターは無言のまま軽く頷くだけだ。
これではまるで話にならない。



別れの場面だというのにこの欲深い男は
秘密をちらつかせ欲しいものを欲しいだけ持っていく。
ごっそりと。



「だって、俺と切れたってどうせ又お前、
 他の奴と懇ろになるだけじゃね」
「あんた人の事を何だと」
「だってそうだろー?俺とこういう事になってんだぜ」
「…!」
「他の奴に横取りされるくらいなら、このままでいい」



俺は。
新しいグラスに口をつけながら巳虎はそう言い笑う。
先程からくわえていた煙草さえ奪われ、
こちらの指先は行き場を失くしているのだ。
カウンターに寝そべったまま、こちらを見ない巳虎を見上げる。



差し出した別れ話は保留。
琥珀に溶け、巳虎の胃袋へ消えていった。



珍しくちょっとだけ真摯な巳虎

2015/11/25

NEO HIMEISM