満たされているという事実に


あるいは比例して


空洞の存在を認識する








基本的に歪んでいるもので、世の中を斜めから見ている。
物心ついた時からそうで、どうやらすくすくと
そのまま成長してしまったようだ。
いいとか悪いとか、そういう話には余り興味が無くて、
とりあえず好きか嫌いかで選ぶ事にした。
ロクでもない人種だと理解しているつもりだ。



だからこののように、
一点の曇りもない眼差しで前だけを見て生きている人間が
不思議で仕様がない。
まるで別の生き物だ。
まったく理解出来ない、好きか悪いかも分からない。
只、とても目につく。



気づけば視界の中にがいて、
気づけば一部始終を録画するかのごとく見届けている。
我ながら気持ちが悪いと思う。
思うが最早止める事など出来ないわけで(これはもう癖に近いのだ)
今日もこうして視界の隅にを留めてしまう。



今はどうやら銅寺と話をしているようだ。
会話の内容は聞こえないが、こうして口の形で言葉を読み取る。
まるでスパイ映画のような真似をしているのだけれど、
そんな必要は何一つとしてない。
やはり気持ちの悪い癖だ。



あの向日葵のような女は大体が下らない話をしている。
昨日食べたものだとか、自分が好きなものの話だとか。
本日のお相手である銅寺は、
そういう下らない会話に付き合うスキルが相当高く、
今は妃古壱も交え異様に盛り上がっているところだ。



どうしたらあの彼女のように、
心の底から笑う事が出来るのだろう。
どうしたらあの彼女を、
みっともなく這いつくばらせる事が出来るのだろう。
単純な疑問と、求められない欲求が交互に沸き上がり
堪らない気持ちになる。



「視姦してんじゃねーよ」
「…突然何ですかぁ」
「お前、最近ずっとを見てるだろ」
「…」
「俺も」
「…」



ニヤリと笑んだ南方はに視線をうつした。
丁度、弥鱈の隣に並ぶ形だ。



「…何なんですかぁ」
「いいよなぁ、あいつ」
「…」
「明るくて可愛くて、誰にも優しくて誰からも好かれて―――――」



警察上がりのこの男が、
どこまで本音を口にしているのかは分からない。
わざとこういうモノの言い方をして、
こちらの出方を伺っているのだとは思う。



南方のいう、のイメージは大体が正しい。
彼女を例える言葉は全てが正論で、
全てが正しくてだからきっとこんなにも堪らない気持ちになる。
この胸のざわめきが何と呼ばれるか自身はまだ知らない。



だけれど今こうして、
隣に同じような不謹慎な思いを抱いている男を並べ、
死ぬほど焦がれているのだろうと思えた。



生きているのか死んでいるのかさえ曖昧な、
とても不感症気味な人間なのに、
こんなに焦燥する事があるだなんて、
こんな思いはこの歳まで知らなかった。



「お前の考えてる事、あててやろうか」
「…」
「汚したいよな」
「!」
「分かるぜ、それ」



たちの盛り上がりは未だ続き、
相変わらず三人でペチャクチャと喋っている。
あの笑顔が一瞬でも歪む瞬間を想像するだけで、
にやついてしまいそうで、だけれどこれを恋だと認識してもいいのかは
未だ分からず、ついと踵を返した。



ちゃんみだの性癖は如何ともしがたいと思います
南方は限りなくノーマル

2015/12/01

NEO HIMEISM