何が為に花は咲く








あたしからは何も取れないわよと
蔑む眼差しでこちらを見つめるは、
相変わらず急に姿を現す自分という男を
当然、歓迎してはいないのだろう。
そもそもが歓迎される人種ではない為、
彼女の不躾な眼差しは不問とする。



少し前までは忍野と何事かコソコソとやっていたと理解しているが、
まあこの女もいい歳なわけだし、所有権の有無もこの際問わない。
何はともあれは今、目前で不快さを前面に出し対峙しているのだ。



世界が夕焼けに染まる唯一の時間。
この女が(そういえば)一番好きだという時間帯だ。
そんな時間帯を狙い会いに来た。
他意はない予定だ。



「すごい数のアザミだな」
「そう?」
「それに、ヒガンバナ」
「頑張ったのよ」



滾るように赤い空に負けず劣らず、
ここら一帯はアザミとヒガンバナで彩られている。
燃え盛る土地。
それでいて噎せ返る程の甘い香りが充満している場所。



そんな場所がのいる場所だ。
この女のいる所、総じてこうなる。
鼻腔に纏わりつく甘ったるい匂いで
元々、正気でもない気が狂いそうだ。



「知ってはいたが、相変わらず趣味が悪いな」
「失礼ね」
「この匂い、気が狂いそうだ」
「そういう仕事なの」
「…知っちゃいるが」



それでも噎せ返るのだと呟き今一度を見据えた。
ジクジクと蒸す気温のせいでじっとりと汗ばむのが生き物だ。
自分以外の。
の白い項を流れる汗に目を奪われ、
何の為にここに来たのかさえ忘れそうだ。



「…ちょっと」
「!」
「あんた今にも触りそうじゃない」
「…匂いのせいじゃないか?」
「思いのほか、直情的なのよね」



あんたも、あいつも。
こちらに背を向けそう笑う
何とも思っていないはずだ。
何に対しても何とも思っていないはずだ。
この女はそういう女で、そんな事は百も承知のはずだ。
だから滾るのだろうと思う。



「それにしても、いつの間にか俺たち二人きりだ」
「ここには最初からあたしとあんたしかいないのよ」
「悪くない」
「えっ?」
「そういう所が、お前は本当に悪くないな」



そのままヒラヒラと舞う指先を捕まえたく手を伸ばしたが、
彼女の指はスルリと逃げゆく。
逃げる度に疼きが増す事を知った上で。
きっと、恐らくは。



もう一度捕まえようと指先を追う。
赤い世界、甘い匂い、逃げる指。
ああ、これでは。



俺はまたお前に負けてしまうんだろうな。


ようやく偽物語をちゃんと見たのです!
貝木悪くないぜ
何かエロいよね、あの作品に出て来る三十路

2015/12/07

NEO HIMEISM