そこから何が見えますか








この寝具の中で確かに彼女は言った。
明日になったらね。
確かこちらがもう一度と強請ったその返事だ。



その明日というのは恐らく残り10分の事で、
このまま時間が過ぎてしまうと
果たしてどうなってしまうんだろうと、
そんな詰まらない事を考えるわけだ。



日がな固いコンクリの上で寝る事が多い為、
稀にこんなにも柔らかなマットレスに埋もれると胸騒ぎが止まらない。
大人しく眠るなんて無理だ。
この柔らかさに埋もれるという事は、
柔らかなの肌に埋もれる事と同義なわけで、
そんなもの道理がない。



昨晩、は確かに隣にいて、
卑しくも二度三度と腕を伸ばしたメメに言った。
明日になったらね。
その明日は、もうじきに終わってしまうのだけれど。



腕を伸ばしサイドテーブル上を弄る。
グラスに指先が触れ、あわや落ちてしまいそうになる。
このホテルの一室はどういう事情で借りているのだろう。
彼女の事だから、恐らく仕事関係になるのだろうが、
相変わらずは一つも本当の事を言わないもので、
それが酷く心地いい。



強請り甘え、分かっただなんて聞き分けのいい振りをしたものの、
やはりの発する言葉に本当なんてないのだ。
だから明日なんてないし、じきに終わる。
毎度のこんな落胆さえ飲み込む。
一緒にいるのに死ぬほど焦がれる。
どこまでもこの胸に空いた穴は落ち込み、
どんな欲望でさえも吸い込む。キリがない。



「ギリギリ間に合ったでしょ?」
「残り二秒」
「ほら」



間に合ってる。
息を切らせドアを開けたは全身血まみれで、
それ以外は今朝と一つも変わらない。



「またアンタは、そんな真似をして」
「ドキドキするでしょう、メメ」
「そうだね」
「もう明日が来ないんじゃないかって」



彼女の全身を濡らす血潮は彼女のものではない。
彼女はこうして全身全霊を使い職務を全うする。
彼女のいうところの【明日を招く】行為だ。



「君がいないとね、ここから動けないんだ」
「そんなわけないでしょう」
「いやいや、それが本当でね」



新しい怪異だと踏んでいるんだとメメは言い、
助けてくれと腕を伸ばす。
どうにもならない、どうでもいい言葉ばかりを
吐き出すメメを見たは少しだけ笑い、
シャワーを浴びてからねと囁くものだから、
だからこの胸に空いた穴はより深さを増すし、
今日も明日も明後日も、全てを飲み込むのだ。



今回の更新はどちらもホテルですね
今気づいたよ

2015/12/09

水珠