神さまですらこわくなかった











そんな事したら、怖い人に怒られるわよとは笑い、
部屋に招き入れた。
ようやく見つけ出したこの薄暗い部屋には何もなく、
じきに彼女は又しても姿を晦ますのだろうと容易に想像できた。
黙ったまま足を踏み入れ、彼女に匂いの充満する室内に視線を巡らす。



心待ちにした場面なのに、どうしてこんなにも喉が渇いているのだろう。
何か飲むかと声をかけてくる
キッチンで何事か音を立てているし、そのまま窓へ向かう。



彼女の存在を考えるとこのカーテンを開ける事はあり得ない。
僅かに空いた隙間から外を見る。
摩天楼の煌めきが眼下に広がっていたが、
やはりが眺める事はないだろうと思えた。



「返事くらいしなさいよ」
「!」
「飲むの?飲まないの?」
「失礼。頂きます」



から渡されるグラスを受け取り、一気に煽った。
甘い炭酸。
味なんてどうでもいいのだ。
呆れたような眼差しのには気づかない振りをする。



「少しは味わいなさいよ」
「…」
「値が張るのよ、これ」



入手経路はあえて聞かない。



「初めて空けたんだけど」



淡い色をしたシャンパンをなみなみと注ぎ飲み干す。
口の中に甘ったるい味が残り、
値が張ろうが張るまいが好みではないと思うだけだ。



「…で、いいの?こんな真似して」
「こんな真似、とは」
「みなまで口にするほど無粋じゃないんだけど」
「口調、変えていいかな」
「お好きに」



薄っすらと微笑むはこちらに背を向けるし、
門倉は門倉で上着のボタンに指をかける。
だからこんな部屋で行う事なんて決まり切っているし、
こんな部屋に誘い込まれた時点で世界は隔絶された。
何もかもとりあえずリセット。



「人聞きの悪い事を言うなよ」
「だって、そうでしょう?」
「何の他意もないよ」
「期待してる癖に」
「俺が、お前に?」
「逆かもね」
「そういう事を言うなよ」



むやみやたらに喜ばせるような言葉を吐くな。



「だって、誰にも言ってないじゃない」
「…」
「あたしがここにいる事」



言えない理由があるって事よね。
はそう言いグラスを置いた。
何となくのタイミングでこちらもグラスを置く。



ソファーに座っている門倉の肩を押し、より深く座らせた。
跨ぎ、ひざの上に座る。



「こういう事がしたいから言えないのよね」
「俺じゃないね」
「何?」
「お前が勝手にやってんだろ」
「…」
「て事はだ。お前がこういう事をしたいって事になるな」
「卑怯な男ね」
「俺もまだ、命は惜しいもんで」
「この場合、あたしが殺されるのかしら」



だったら本気で逃げなきゃねとは言うわけで、
彼女が逃げおおせている間はこうして戯れていられる。
だけれどきっと彼は知っている。
彼が気づかない道理がないからだ。
想定し自分という駒は泳がされているだけなのだ。
分かっている。理解した上で踊っている。



脳が沸騰しそうな程、滾る身体をそのままに彼女を見つめていれば
の両手が頬を包み、少しだけ開いた唇が近づいた。
どれだけ戯言を囁こうと、どれほどの言い訳を重ねようと
結局はこういう事なのだと、どうにか騒ぐ心を落ち着かせるが、
果たして効果はあっただろうか。






撻器さまが生きてて
尚、雄大くん復活後という体でお読み頂ければと,,,

誰得かというと、只々あたし得なだけという話です
私は撻器さまは確定として
セカンドverの雄大くんが好きなのです

2015/12/18

水珠