鳴り響く鐘の音と共に



記憶の彼方へとさようなら










こちらの好意に一切反応を示さない女を
この部屋に連れ込んで一時間だ。



その理由をどうしても知りたく、
これまで幾度も接触を試みた。
彼女は職務上、大変丁重な態度を崩さないが、
僅かに笑むだけでこちらに感情一つ寄越さない。



そもそも恋心だなんてまるで理由付けの出来ない
フワフワとした思いを産まれて初めて抱いたようなのだ。
そんなものに心を差し出すつもりは毛頭ないが、
ざわつきを抑えたく理由を探していた。



一目見た瞬間から何か特別なものを感じ、名を調べた。
名も知らない女に心を奪われたわけで、
これでは道理がいかないと考えた。

その名さえもどこか懐かしく、素性を全て洗う。
ずっとこの賭朗に関わった生活を送っており、
問題はないと思えたが。



「…いつまでだんまりを続けるの?」
「…」
「僕も君も、そんなに暇じゃないはずだけど」
「目的は―――――」



何なの。
大きな窓から摩天楼を見下ろす
こちらに背を向けたままそう言う。
どこか言いなれたような、決まりきった台詞だ。
こういう場合にはそう言えと教えられたかのような。



「目的…」
「あなたがこんな真似をする理由がわからないのよ」
「僕は言ってるよね。、君が気になると」
「気になる?」
「そう」
「それって、どういう意味?」



ガラスに映った彼女は俯いたまま、
とても詰まらなさそうに口を開いている。
まるでこちらに意識がない。冗談のように。



「性的に興奮してるっていう事?」
「意外と下世話だね」
「これきりにして欲しいの」
「…」
「私も暇じゃないのよ」



彼女は顔を上げない。こちらを見ない。



「そんな誘い方じゃ興奮出来ないんだけど」
「我儘言えるような歳じゃないでしょう」
「…君、」



僕の事を知っているよね。
直器はそう言い、立ち上がる。
が初めて顔を上げた。
何だ、その表情は。



「…お屋形さま」
「そう。だけど違う。そういう事じゃあない」
「…」



直器の手がの肩に触れた瞬間だ。
彼女が震えた。それはきっと過剰に。
だけれどまだこちらを見ない。
強張った表情で眼下の街ばかりを見下ろしている。



「君は、僕とここに来た事があるよね…?」
「…」
「君は僕の」
「やめて」
「!」
「もうやめましょう、創一さま。こんな真似はもう」
「これは何度目かな」
「…」
「僕は何度、君を忘れたのかな」



そうして幾度君をこの部屋に連れ込んだのかな。
君に恋をしたのかな。まるで初恋の様に何度も。



何度も、幾度もだ。
もう心が疲弊し立ち直れなくなるほど恋をされた。
この、切間創一という男に。
触れる温もりも眼差しも全て変わらず、
果たして何が変わっているのかさえ分からない。
だけれどこれはきっと違う男なのだ。



「…
「もう、解放して下さい」
「…」
「直器」
「…直器じゃない」
「…」
「創一だよ」



どちらも僕だと耳側で彼は呟く。
性懲りもなく又訪れる絶望の瞬間を受け入れる事は出来ないまま
目を閉じれば、変わらない唇が触れ、
どうしようもない思いだけが取り残されるだけだ。




直器くんにするのか創一くんにするのかいつも悩むんだけど、
私は蜂名直器という名前、字面がとても好きな為、
恐らく直器くん表記が増えると思います
創一くんてちょっと固いからさ、、、

2015/12/18

NEO HIMEISM