神様はここにいるよ








だって今更拒めないでしょうと男は言い、
距離を取ろうと振り上げかけた右腕を掴みシーツに押し付けた。
とても柔らかく。
脳髄まで酒に侵された頭は状況を冷静に判断出来ず、
それなのに動悸ばかりが増していた。



室内の照明は薄暗く、この男の表情さえ読めない。
冷えた指先の感覚だけを覚えていた。
それと時折射貫く眼差し。



正気に戻りそうになる度に視線が合い、
これは間違いではなかったのではないかと思い違える。
簡単にいうと、拒めなかったのだ。



釈明させて貰えば、その部屋で全身を弄られ
身体が素直に反応している間はまったく気づいていなかったわけで、
体内に1、2本の指が侵入してきたくらいに
ぼんやりと意識が明確になり出した。



だから、それまではまさかあの男が
身体に跨っているとは思わなかったのだ。
気づいた瞬間、とりあえず身体を離そうと思い
腕を振り合げかけたけれど、男の指がすぐにそれを捕らえた。
二の腕の内側をゆっくりと舐め上げ、耳側で囁いた。



だって今更拒めないでしょう。
ねえ、



「…そんな話をどうして俺にするんだよ」
「あんたが聞いたから」
「そうじゃない、そういう事じゃないだろ」
「だってどうでもいいじゃない」



あたしはあの男をどうとも思っていないし、
あんたの事を愛しているのよ。
平然とした顔ではそう言う。
呆れた女だと思うだけだ。



「そもそも、どうしてあんたがそんなに取り乱すのか
 不思議に思っている位だけれど」
「俺と寝ている女が、共通の知り合いと寝た話をしてくるんだ。
 多少なりとも取り乱すのが自然だ」
「だってほら、あたしはあんただと思ってたわけだし」



あの日、口論をした。
原因は覚えていない。
只、はしこたま酔っていたし、
腹をたてた貝木はすぐに席を立った後だった。
それだけだ。それだけであの間違いは成立した。
メメが何を考えていたのかは分からない。
いや、嘘だ。



「分かってた癖に」
「!」
「こうなる事、あんたは知ってた癖にね」



別にいいのよあたしは誰とでも寝る女だし。
はそう言い、視線を滑らせる。



「…あいつはお前の体液が欲しかったんだ」
「言わなくても分かってるわよ」
「お前の体液には」
「知ってる」



力を増幅させる力があるのだと、
そんな嘘みたいな話を知ったのは物心がついた頃で、
それを諭すように教えてくれたのは育ての母だった。
神に捧げる巫女として育てられる一族、その末裔だ。



不穏分子と呼ばれた産みの母は
を産み落とした後に姿を晦まし、
それから15年後に戻って来た。
里を崩壊させる為に。



一切に無力だったはそれらを見ている事しか出来ず、
全てが終わった後、こんな場所は忘れて生きて行けと告げられる。



「…似てたのよ」
「…」
「あいつの目とあんたの目は似てたわ」



だからいいじゃない何の問題もないわと呟く
傷ついているのだろうか。
慰める術も言葉も持ち合わせないが、
この憐れな女を手放したくなく手を伸ばす。
生まれも育ちも、生き様さえも憐れな可哀想な女。



「安心しろ。二度はないぜ」
「…乗り換える可能性はあるわよ」
「それもないな」



そんな貝木と話を紡ぎながら、あの謎の夜を反芻する。
止む無く反応した身体、どうしようもなく襲う快感、
気持ちよさ、全て。



そんな生き物として生まれ落ちた定めだと
割り切る事が出来ればいいのだが、不要な思いがそれを阻む。
それだけなのだ。



あけましておめでとうございます
ことしもよろしくおねがいいたします
今年最初の更新でこれってどうなの?
と思う反面、
こういうサイトですという開き直りで
生きています(今年も)

2016/01/06

水珠