誰を殺しても同じ罪なのに








お前はそうしてどこへ向かうんだと彼は言った。
幾度目かの対峙の後だった。
本気で挑む事はなく、あの時も手慣らし程度にやりあった後で、
それでもこちらの体力は十二分に削られていた。



相変わらず今日も髪の毛一本ほどの傷さえ
つける事が出来なかったなと彼の姿を見上げ思えば、
じくじくと指の先が痛んだ。
どうやら爪が割れてしまったらしい。
足元には少しの血溜まりが出来ていた。



「…どこも」
「?」
「行く場所なんてないわ」



元々フリーランスで生きてきたは今、
人生の岐路に立たされている。
これまで雇ってくれていた組織がなくなってしまったのだ。
今、目前に立ち尽くす男の組織に潰された。



挙句、すぐに次を探せばいいのだが、
熱烈な勧誘を受けている為にそれさえも侭ならなくなっている。
そう。今、目前に立ち尽くす男の組織、そうしてその男に。



「じゃあいいじゃないか」
「…」
「妙なしがらみなんぞ考えるな、馬鹿らしい」



割れた爪から血が垂れ、足元に落ちた。



「ダメ」
「どうして」



お前に失うものなんてないだろう、
撻器は言う。
もうお前には何もないじゃあないか。
続ける。
だって全て奪ってしまったからな。



「ああ、勘違いするなよ。
 別にお前のせいでこんな事になったわけじゃあない。
 これとそれはまったく違う話だ。
 だからお前は何も気に病む必要がない」
「…約束したのよ」
「…知ってるよ」
「!」
「お前を連れて逃げ出すってヤツだろう?
 あの詰まらない男がうわ言のように呟いていたが」



何れにしたってお前にはもう何もない。
撻器は続ける。



「妙な期待なんぞ持つだけ無駄だ。
 奇跡なんて信じる柄じゃないだろ。そもそもお前には似合わない」
「あの男は優しかったわよ」
「優しさなんかじゃないさ」
「そう?」
「力のない者のそれは優しさじゃあない。只の弱さ、偽善だ」



だから俺はお前を逃がさないし、お前を連れて逃げもしない。
俯いてばかりいれば足元に酷く手入れの行き届いたつま先が出現した。
割れた指先を撻器の指が捕らえ、愛おしそうに撫でる。
お前がつけた傷だが、果たして。



「俺はお前を一人にしないよ」



そんな、うわ言のような台詞を、



「絶対に」



熱に魘されて彼は囁くのだ。




やはり今年一発目の嘘喰いは
撻器さまにしなきゃいけないという
義務感に突き動かされました
この主人公は後に、
うそつきー!と言ったとか言わなかったとか(號奪戦後)

2016/01/06

NEO HIMEISM