散々な目に遭ったと呟いたは、少しだけ口元を腫らしたまま姿を見せた。
この半月ほど姿を晦ましていた彼女は、とある厄介事に巻き込まれていた。
立会人の仕事の大よそ半分を占める、集金。
相手は複数の麻薬カルテルを持っている男―――――
戦争でも始めるのかと思い違える人数を投入され、担当の立会人は死亡した。
尻拭いのお鉢が回って来たのが、基本的にツイていないだ。
力量と実績で抜擢されたものの、確実に貧乏くじなわけで、
その話を能輪から聞かされたは当然憤った。
が、決定が覆る道理もなく、南米へ渡った。
「お手柄だな」
「なーにがお手柄よ、どいつもこいつも」
そう言い笑う。
「お前、あいつに何も言わずに行ったろ」
「あいつ…?」
「南方」
「あぁ…」
「一言くらい何か言って行けよな」
気にしていたぜと門倉は言い、車のドアを開けた。
この男はこういう男だ。
兎角、面倒見がいい。
今だって南米帰りのを待ち、部屋まで送ると言う。
いや、違うか。これは。
「ウチ、こっちじゃないんだけど」
「時差で方向感覚がイカれたか」
「世話焼きもそこまでいくと病気だわ」
「情のない女だな」
「あんた少し過保護なんじゃないの」
どんな顔をしてどんな言葉を口にしていいのかが分からなかっただけだ。
どの位の期間になるのかもまったく読めなかったし、
慣れない真似をしたら俗に言う前フリみたいな、
この戦争が終わったら結婚するんだ、等と言って死ぬ兵士のような
パターンになりそうで怖かった。
何て言っても門倉には伝わらないし、自分でも嘘くさいと思う。
門倉の車はまっすぐに南方の部屋へ向かった。
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それから小一時間だ。
相変わらず生活感のない部屋で気まずい時間を共有している。
門倉に連れられこの部屋に来たを、南方は黙って受け入れた。
受け入れたというか、部屋の中に入れた。
こんなに無言の気まずい空間を共有しているのだ。
受け入れちゃいないのだろう。
門倉とは一言、二言言葉を交わしていたようだが、
それからはまったくの無言だ。
「…」
まあ、こんな空気を耐え難いと感じているのは南方も同じだったらしく、
先程から液晶テレビがどうでもいい映像を垂れ流している。
壁に掛けられた無駄にデカいそれ。
彼はソファーに座ったまま、こちらに背を向けている。
「死んだと思ったぜ」
「!」
「女一人で麻薬カルテルに乗り込むなんて」
正気の沙汰じゃねェ。
確かにそうだ。
南方の言う通りだ。
そんな事はだって思っていた。
能輪はこちらが不死身だとでも思っているのだろうか。
まあ、毎度毎度そう思うだけだ。
「何か、そういう仕事が回って来るのよね」
「断れよ」
「断れると思うの?」
恐る恐るソファーへ近づく。
「ただいま生きて戻りました」
「…」
「何?あんた、泣いてるの?」
「うるせェな」
「えっ、ごめん、わかんない」
「うるせェよ、お前」
だからこの男のこういう熱い感情の起伏さえ
理解出来ない自分と言う人間は、
能輪に死地へと送られるべき人間なのだろう。
愛も恋も知らず、だから言葉さえ選べず姿を晦ましただけなのに。
目頭を押さえている南方にかける言葉もやはり持ち合わせず、
只ぼんやりと彼を見上げる事しか出来ない。
そんな、欠陥品の自分と言う人間を知りながら、
こうして涙を流す南方が余りに憐れなのだ。
トレンディ南方第二弾です
どうしても絡ませてしまう雄大君、、、
逆も又然り
2016/01/18
NEO HIMEISM
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