しとやかな嘆き











俺の事をすぐに殺せるのに、そうしないって事はどういう事か、
には理解出来てるよね。



目の前の男は遥かに弱い立場にいるはずなのに、そう言う。
体躯の差はあれど、力量は歴然としているのに。
この右腕一本で簡単に命など奪う事が出来る。
それは只の事実で、全てだ。



「…伽羅は来ないわよ」
「伽羅さんを捲くなんて、大したもんだよね」
「ここにはあんたとあたししかいないの」
「…それって、どういう意味?」
「えっ」
「ここに、俺としかいないって」



そりゃあちょっと意味深な発言じゃないの。
貘が立ち上がった。



そう。こんなものは取るに足らない出来事で、
この男相手に最初から負けていた事実を知っている。
一目見た時から心奪われ、しかもそれは簡単に知れていた。
人の心を見透かし弄ぶ事が本分の
そんな男に心奪われたのだから仕方がない。
これまで誰にも言わずに秘めていたというのに、
何故こんな真似をしてしまったのだろう。
思いが溢れ暴走したとでもいうのか。
そんな、道理のいかない。



「…俺はね、
「…」
「別に、いいんだよ」
「…」
に焦がれてるってわけでもないけど、好きだし」
「…」
「そんな目で見て来るんなら余計に」



今まさに心を弄ばれているのだと全身が気づいている。
近づく貘は肩に手を置き、少しだけ背を屈め耳側で囁くのだ。
悪魔のような台詞を。



「俺に抱かれに来た」
「…」
「なんて言えないか」
「ちょっと、」
「門倉さんにばれたら事だもんね」
「!!」



背後から抱き締められる寸での所で振り払い距離を取った。
心臓の動悸が全身に広がり、どんな表情をしているかさえ定かでない。
どうして。何故。何故その事をこの男が知っている。



「あれ?もしかして、隠してたの?」
「あんた、何で」
「そんなに大事な事なら、もっとちゃんと隠さないとね」
「…!」
「そうしないと、こうやって知れて」



悪い奴に知れて好きなようにされちゃうよ。
貘はそう言っただろうか。分からない。
何故この男が門倉との蜜月を知っているのか。
誰も知らないはずなのに。
何もかもすべてを知った上で招き入れたのか。
私を利用し尽くす為に―――――



「ああ、。誤解しないでね」
「…」
「利用したいってだけじゃないんだ」
「ちょっと…」
「恋に落ちたのが早いか遅いか、それだけの話だから」
「触らないで」
「1秒でも2秒でも、早けりゃ負け」



だから俺が勝ってが負けた、それだけの話さ。
だからそう深く考えないで、とりあえず流れに身を任せて。



暴かれた門倉との蜜月という秘密を鼻先にぶら下げられ、
最早手も足も出ない。
美しい眼差しでこちらを見つめる貘は
あくまでも恋の話にすり替えるのだろうが、これは脅迫他ならない。
何よりも美しく何よりも残酷な脅迫。
心を担保にしたそれ。



元よりゲームに負ける気のない貘が仕掛けたのだ。
こちらに勝ち目がない事位、この部屋に入る前から分かっていた。



貘ちゃん久々に書いた気がしたんですけど、、、
彼はこういう心の動きに気づくの得意そうですよね
興味はなさそうだけど、、、
ちょい出し雄大くんに大した意味はないです
私がそういうの好きなだけです

2016/1/25

水珠