首輪、鎖、檻、縄、お前











無駄口を叩く暇があるなら殺せよと、
うんざりしたような表情の、それこそボロキレ寸前の女は吐き捨てた。



よくもまあこんな状態でそんな口を叩けたものだと感心したが、
背後の上司は感心以上の何かを抱いたらしい。
小さな声で気に入ったと呟き、最後の止めを制止したからだ。



その時点で彼女の人生はとても凄惨なものに変わったのだけれど、
彼女がそれを知る事はもう少し後の事になる。



兎も角、拘束を解かれた彼女は床に突っ伏し咳き込んだ。
あの様子では肋骨は数本いかれているのだろうし、
長い時間拘束されていたのだ。四肢に力は入らない。



全ての作戦を切り上げ、
ボロキレ寸前の彼女を拾い上げた真鍋は一人姿を消した。
それ以来、彼女―――――
の消息を知る者はいない。











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圧倒的力量を前にし、心折れないその気高さに興奮した。
そういう性癖なのだ、今更どうこうする事も出来ない。



元々、密葬課にて内偵を進めていた
とある組織の飼い犬だったこの女、には随分手を焼いた。
組織の全貌を知るにつれ、この女は専属ではなく、
様々な組織から仕事を委託されている
フリーランスの殺し屋なのだという事が分かり、
とりあえず確保を目的とし、今回作戦を決行した。



「…!」
「起きたか」
「何の真似」



クソみたいな世界に生きる徒花だ。
の存在は自身の中でそんな存在だと思う。
これだけ虐げられ、暴力に晒されたというのに失われない目の力。
どう考えてもこれから状況が好転する事はないというのに、
何故こちらを見つめる事が出来る。



「ここは、俺の所有地だ」
「…」
「よくあるやつさ、辺鄙な場所にあって、俺とお前しかいない」
「…何よあんた、シリアルキラーなの?」
「そういう癖はないはずなんだが」
「じゃあ、何のつもりなのよ」



淡々と口を開いているはずのの脳は、
目まぐるしく回転しているはずだ。
現状をどうにか把握し、
最悪の中でも最上の選択をしようともがく。もがいている。



今、目前に転がるこの女はとても弱く、それでいて美しい。
今まさに胸中に渦巻く気持ちの為にこんな真似を、馬鹿な真似をしている。
答えが出るとは、到底思えないが。



「…、だったかな」
「…」
「これから先は俺の好きにやらせて貰うよ。
 ここは俺の城、ここにあるのは全て俺の好きなものだからな」
「…そんなのは別にあんたに限った事じゃない」
「!」
「どいつもこいつも、同じような事を言うわよ」



今のあんたとね。
見透かしたようにそう言うはとても欲情的で、
性欲を直情的に刺激する。
きっと自分だけでなく、のいうところの、どいつもこいつも。



顔にかかった髪を指先で掬い、輝く眼を直視する。
痛い程脈打つ性器は熱を発し、
今にも破裂しそうだと、この女は嘲笑うだろうか。




骨の軋む音が聞きたい、の前章みたいな感じです
続くかどうかは分かりません

2016/2/7

NEO HIMEISM