傷跡に爪を立てるとよろこぶきみ











いつの間にかこの身体は薬に食われ、後戻りは出来なくなっていた。
頭の中は霧がかかったように終始白く濁り、
思考回路はほぼ機能していないのだと思えた。



あの男と会う時。それは寝る時と同義だ。
彼は薬を使ってのセックスが好きで、それは快感が急激に増すからで、
それはも同じだ。
脳幹が直接的に揺さぶられるような
激しいショックに時折襲われながらも、すっかり脳は薬の虜となっていた。



途中から実は気づいていた。
この男は、本当に薬を使っているのだろうか。
廃人に近づいているのは、こちらだけではないのか。



でも、もう為す術はない。
身体は単に薬を欲しがる血の詰まった塊となり、脳は他所へ。
彼のいなくなったモーテルの一室で身動き一つ出来ず転がる。
呼吸は浅くなり酷い倦怠感だ。喉も乾いている。
死にたいと思っていた。



それと共に、どうしてこんな事になったのかと、
どうしようもない後悔を募らせる。
今思えば大体が一人でさめざめと泣いていて、
そんな日々を送るつもりじゃあなかったのにと又、泣くのだ。



そんな、何にもならない、
何一つ生み出さない非生産的な日々の中にキッドは顔を出す。
彼だけが昔と何も変わらない。
昔から求め、昔からこの力を欲す。
こんな、震える力のない指先に何の価値があるのか。
見捨ててさえくれれば、



「…!!」
「発作だ、べポ」



夢うつつの中、ふと意識が戻るタイミングで激しい発作が襲う。
吐瀉物を詰まらせないように首を横にむけられ、
胃液を吐き出し痙攣を耐えた。
まるで全身が悲鳴を上げているようで、
これまで感じた全ての痛みを再現しているようだ。
朦朧と


する意識の中、慣れた手つきで処置を手伝うべポの姿が見えた。
そしてローの姿。
胃液も出なくなり、吐き気に襲われ続ける。
涙が絶え間なく流れ、死んで楽になりたいと思う。



息も出来ず、耐え難い痛みに苛まれ、
そんな自身の命を辛うじて繋いでいるのは
少なからず関係のあった男―――――



「こんな状態のお前を見るのは、何度目かな」
「…!!」
「お前はずっと、いつだって、あいつの監視下だ」
「…!」
「あいつは俺がお前を見捨てる事が出来ないって、知ってやがる」
「…して」



そう。この男が言う通り、昔からこんな真似を繰り返している。
その都度命を拾ってくれたのはローだ。
彼の意思かどうかは分からない。指示かも知れない。
こうして逃げ出した後も同じ事を繰り返す。
いかれてしまった脳の仕業かと思っていたが、
これも全てあの男の手の内だったのか。
ああ、



「殺してよ、ロー」
「ああ、殺したいね。こんな真似、もうまっぴらだ」
「…」
「俺もお前も、あいつの呪縛から逃れられやしねェ」



震えの止まらない指をローが強く握った。
随分久しぶりの懐かしさだ。
望郷の思いとでも言うのだろうか。



「…あんたと、あんたと一緒にいたいんだけど、癖になっちゃうから」
「あぁ」
「ドフィは最悪なヤツよ」
「知ってる」
「一緒に逃げたかったんだけど」



混濁した意識の中、繋がらない言葉を紡ぐを見る。
逃げ出す直前の記憶が蘇えるが、当の彼女は覚えているのだろうか。






世界をつかむ事は出来たのか、
全てを捨てたら命だけが残りました、
の続きです
思ったより全然続いている。。。
そして、聞きかじった【ドフィ】を出してみました
いや、その愛称で呼んでみたかっただけさ
続きます

2016/2/7

NEO HIMEISM