そんなつもりじゃなかったはずの女を組み敷き、
無駄口を叩かれる前に舌を捻じ込んだ。
希望としては目前で跪かせあらゆる事に従わせたいくらいだが、
そんな欲求は到底無理だ。
のこのことこの部屋にやって来たをまんまと招き入れただけだ。
多少じたばたと無駄な足掻きをしているが、じきに諦めるはずだ。
彼女の細い手首を掴み肌を滑らせながら指先を絡ませる。
息を奪い酸欠状態に陥れ、意識さえ朦朧とさせる。
お前が何と能書きを垂れようと、
こうして楽しい時間を過ごすのが最良なのだと身をもって教え込む。
ここ数年で最もバカな真似だ。
「かど、」
唇を離せば何事かを呟きかけ、
知りたくもない情報を頂戴するくらいならばと又、塞ぐ。
数日前、南方から話を聞いたばかりだ。
流石に行為の有無までは知らせなかったが、
容易に想像出来るようなものの言い方だった。
あいつ変わってるわね。
はそう言い、簡単に証言を得る事が出来た。
この、ありとあらゆる痛みに無頓着な女は他人の痛みにさえも鈍感だ。
「あんたも、あたしと寝たかっただなんて、知らなかったわ」
「…俺もだよ」
「へェ」
初めてこの女を見た時からどうしようもなく気になっていた。
無理もない。こんな姿を晒して生きているのだ、無理もないだろう。
誰の目にもつく。
素性を洗い、諜報活動を専門に行っている女だと知り、
それからコンタクトを図った。
「これってどういう意味?」
「…黙ってろよ、少しは」
「だってさ」
今生の別れみたいじゃない。
「…」
「聞いたのね」
「…」
「次の仕事、聞いたんでしょ」
この部屋を訪れた理由は恐らくそれだ。
今となっては確かめようもないが。
「いいから少しは、黙れよ」
雰囲気もクソもない女だと呟いた門倉は、
覆い被さったから身を離す。
そのままベッドを降り、煙草に火をつけた。
「一方的に押し倒しといて、どんな言いぐさよ」
「萎えた」
「最低な返答ありがとう」
能輪から告げられた次の仕事は、長期的な潜伏を伴う内容だった。
前任者10人は全員死亡。
厄介なのはターゲットを殺すだけが目的ではない点だ。
組織そのものを奪うべく、長期的な計画で屋台骨を侵す。
当然ながら断る事はせず、ぼんやりと了承を告げた。
こんな生き方しか出来ない自分のような人間には
おあつらえ向きの仕事だと思いながら
気づけば門倉の元を訪れていたのだ。
その際の感情や動機は考えない。意味がないからだ。
門倉は特に驚きもせず、淡々と部屋へ招き入れた。
まあ、確かにそれから先の彼の行動は予想だにしないものだったが、
構いはしなかった。
彼の言う通り、何の痛みも感じない人間だ。
だから南方と寝た事も伝えるし、
何考えてるのかしらね、だなんて軽口も叩ける。
何かが門倉の琴線に触れてしまったのだ。
だから彼は。
「傷つきゃしないだろ、お前は」
わざとそう言うのだ。
冷ややかで確かな死の感触、の続きです
2016/3/22
NEO HIMEISM
|