ぼくを縛り付ける鎖は


きみの首にさえ絡みついていて








酷い吐き気で目覚め、
ベッドから転がり落ちながらどうにかトイレに駆け込んだ。
文字通り体内から吐き出される吐瀉物と共に記憶も失われつつあり、
何故こんな状態に陥っているのかがまるで理解出来ない。
胃の中の物は当然全て吐き出され、ついでに胃液も散々吐き出し、
まあそこまで吐き出せば多少なりとも体調は落ち着き、頭もクリアになる。


とりあえず失われた昨晩の記憶を取り戻したく、
断片を捜しているが不思議な事にまったく思い出せない。
そもそも、今いるここはどこだ。
壁に手をつき、どうにか立ち上がる。


何をしたのかは分からないが、
随分と悪い酒を飲んだようで、膝がやられている。
どんな深酒をしてもこんな状況になった事はなく、
これは酒だけではないのではないかと考える。
それこそ俺は昨晩、どこで何をした?


どうにかベッドまで戻れば、
裸のがシーツを纏い方膝を立てた状態で俯いている。
この時点でしでかした罪の大きさに辟易とする。


この女と何か、何がしかをやったのだ。
それぞれの思惑があり、
これまでどうにか微妙なラインで避けてきたというのに、
挙句まるで覚えてはいない。
これは相当に、随分マズイ展開だ。



「…門倉」
「……」
「ちゃんと家まで送りなさいよ」
「…おぅ」



俯いたままのは片腕だけを伸ばし、指先を躍らせる。
声色は決して明るくなく、恐らく彼女も具合がよくないのだ。



「…あんた、覚えてないんでしょ」
「!」
「バカな真似したわ。こんなの、丈一さんに知れたら…」



―――――彼女は掃除人だ。
ランクは丈一と同じS。
故に丈一のお気に入りであり、
故に立会人と懇ろになる事は許されない。
それは規律などではなく、単に気分の問題で。
要は、夜行丈一が許さないというだけ。


孫ほど年齢の離れたに手を出しているとは考え難いが、
一般常識がまるで通用しない組織だ。
そんな物差しは馬鹿げている。



「そもそも、知れたらあんただってマズイんだから」
「…あぁ、まぁ、そうだな」



相変わらず顔を上げないは、
打ち合わせをしなければならないと言い出し、
とりあえずこっちに来いと指先だけで伝えて来る。
こちらとしても、立ちっぱなしは辛い状態だ。
這う這うの体でベッドにたどり着けば、
やはり裸のがそこにいるわけで、心はざわめく。



「っていうか、俺とお前が一緒にいるなんて、
 想像もしないんじゃねェの」
「知ってるから」
「は?」
「あんた、本当に何も覚えてないの?
 昨日、あんた、あたしを助けに来てくれたのよ」



一人で片づける予定が、相手さんの人員増加により難しくなったのだ。
現場の近く門倉がいた為、派遣された。
あらかた片付け、残党狩りをしていれば、
息も絶え絶えの何某かが最後の悪あがきを炸裂させた。
ドラッグの大量投入―――――
視界が白く染まる量のドラッグが室内にばら撒かれた。


すぐに粉末状のドラッグだと気づいたが、
脱出するまでに随分吸い込んでしまった。
それは門倉も同じだったようで、そこから記憶は飛び飛びになる。
丈一からの連絡にも出ず
(それは先程確認した携帯の着信履歴などにより、二人とも)
辛うじて覚えている記憶では、
バーのような薄暗い店でグラスを交わしていた。



「あぁ〜〜〜〜だから、こんな体調なのか。
 酒だけでこうはならねェと思ってたんだよ」
「言い訳ちゃんと考え…見なさいよこの履歴。尋常じゃないわよ」
「うわ、怖ェ」
「これ、どうすんのよ…」
「あのさぁ、ちょっと聞いていいか?」
「え?」
「お前と夜行掃除人って、ヤってんの?」
「あんた、馬鹿なんじゃないの」
「だよなー?」



高純度のドラッグを随分吸い込んだのだ。
だからまだ頭は動きたくないと言っているし、身体だって同じだ。
そもそも、こちらの居場所なんてGPSでとっくに知れてるはずなのだし、
幾ら口先だけで誤魔化したくとも無理なのだ。


その証拠に、門倉の個人携帯にも(恐らく夜行掃除人であろう)
知らない番号から散々着信がかかっている。
後にも先にも引けない、立会人と掃除人の情事。
まるでロミオとジュリエットのようだ。悲劇だが。



「どうせ筒抜けだろ」
「…」
「全部、俺のせいにしたらいいんじゃ」
「ちょっと」
「のぅ、



とりあえずもうひと眠りしてから考えようぜと言う門倉は、
とっくに腹を括ったのだ。
この切り替えの潔さは、流石立会人と思える。
全てを門倉のせいにしてもいいのだが、
そんな真似が出来る道理もない。


まったく回らない頭のまま、
ベッドに倒れ込めば門倉の腕が遠慮もなく絡んできた。



謀らずとも丈一さんが変な感じに!
二人ともへべれけな話を書いてみました
ぼくを縛り付ける鎖=丈一さんです
今度からその執拗な監視下に雄大君も…

2016/07/16

NEO HIMEISM