さよならよりかなしいわかれ













腹の上からようやく降りた女は、
どうにも心ここにあらずといった様子で、
やる事はやった癖にどういうつもりなんだと思うわけだ。


今日だって何のアポもなしに人の部屋―――――
そもそも、ホテル暮らしをしているこちらの居場所を
どうやって知りえたのだと当然の疑問は生じるのだが、
相手がだという一点だけで
何となく道理は通っているのかなと思える。
だからそこは不問にした。


一人ゆったりと夕刻の時間帯を満喫していればドアがノックされ、
ルームサービスなど頼んじゃいないが、なんて
能天気な事を思っていればだ。
平穏で平坦な日常はいとも容易く壊される事となる。


鍵を開けた瞬間、強引にドアは開かれ、
何とも縦横無尽な女が室内に侵入した。
まるでゴーストだ。
とりあえず、障る。



「…帰るのか?」
「帰るわよ」
「もう、遅いぜ」
「何?心配でもしてるの?」



恐らくこの、心ここにあらずの女の頭の中にはあの男が存在するのだ。
別の男に頭を占領されながらも、他の男と寝るのだから、
この女はイカレている。
そんな女と寝る自身も相当におかしいのだろうが、
セックスに良し悪しは無しとの考えだ。
きっと、この女も。



「…お前は、何でこういう真似をするんだ?」
「えっ?」
「余り深く考えるなよ、単に気になっただけだ」
「理由なんてないわよ、そんな、あたしのやる事なんて」



メメの話ばかりをするこの女と寝る理由は何だろう。
関係を初めて持った日からずっと、
こんな真似をしなければいいのにと思っていたし、
それは今も変わらない。


只、こちらが口を挟むような話ではないし、
そもそもが何を言わずともは勝手に顔を出す。
毎度毎度、これが最後になるのだろうかと思い、
夢見のいいものではなかったが
思い出としては上出来だと、無理矢理に納得しようとするのだが、
不思議とは何度でも来る。



「…俺はあいつの代わりには、なれないと思うが」
「…」
「どうなんだろうな」



貝木の呟きは閉まるドアに吸い込まれ、
若しかしての次回に期待こそするが望み薄だ。
それにしたって詰まらない事を口走ってしまったと、
後悔だけを募らせた。




久しぶりな貝木です
どうしようもない男と女の話です

2016/07/25

NEO HIMEISM