ぼくらは愛の結末を知らない










これまでロクな人生を送っちゃ来なかったが、
何もその全てが自分のせいだなんて思っていない。
正味の話、八割がた自分を取り巻く環境のせいだと思っているし、
残りの二割は人の所為。


生まれが悪すぎたのだと出自を恨むのも飽きたし、
世を嘆き全てを憎む段階はとうに過ぎた。
そこそこに最低だが、下には下がいるだろう。
お会いした事はないが。


だから今、(恐らくは)廃墟のような場所で
後ろ手に縛られ椅子に座らされている状態は何も特別ではないのだ。
予想だにしないようなものでもないし、想像がつかなかった結末でもない。
それだけの事は確かにした、ような気がする。
余り詳しくは覚えていないが。
恨みつらみは把握出来ないほど買っている。
そんな生き方だし、人生だ。
まあ、これも望んではいないのだが。


それにしたってこの縛り方は何だ。
まったく、少しも、万に一つも無駄のない縛り方だ。
どう足掻いても抜けやしない。
こんな縛り方が出来るのは。



「…そういえばお前は、昔からそうだったな」
「…」
「あの時だってそうだ。
 あたかも近くのコンビニに買い物をしてくるかのようにフラリと姿を晦まし、
 お前はそのまま戻って来なかった」
「…執念深い男ねぇ」



心の底から吐き出しながら、これがお似合いの結末なのだろうと思う。
自分のような人間には相応しい有様だ。
生きているかどうかさえも定かでないこんな人生に執着はない。
本名もなく、この世界に居場所もない。
目的さえなく、拾われた組織の求めるままに生きているだけだ。



「お前、記憶がないんじゃないのか」
「…」
「だから、戻って来れない。
 戻って来なかったわけじゃなく、戻って来れなかったんじゃあないのか」



只々アルコールを浴び、そうして仕事を終わらせるだけの単調な生活だ。
記憶する事など不必要な生き方。むしろ記憶なんてない方がいい。
殺した奴らの顔なんて記憶から消してしまいたいはずだ。
きっと、誰でも。


だからそうした。
何もかも覚えず、全てを忘れる選択をした。



「…だったらどうしたっていうのよ」



それにしても縛られた手首が痛い。
擦れ血が出ている。



「いつからだ」
「…」
「答えろ、



目前に座る真鍋はハナから長期戦を覚悟のようで、
こちらからまったく視線を逸らさない。
この深い眼差しを見つめていれば、
叶うあてもない万が一の未来が容易に想像出来、尚更気分は滅入る。


元々、そう明るい性分ではないし、前向きでもない。
人生は辛く困難だ。あてもない、何もない。
誰も、自分でさえも。



そんな事は誰よりも、
目前のこの男が一番よく知っているはずなのに。



俺はお前の幸せを望んでいるだけなんだと、
この男は毎度口にするが、
その言葉の意味さえも理解出来ないは裏も何もかけず、
只、目覚めて躓くこんな人生に嫌気がさしている。
幸せな結末など、どう転んでも手に出来ない。
とても悲しい話だがそれが事実だ。


そんな事くらい分かっているはずなのに、真鍋匠という男は認めない。
そんなに哀れな一生しか選択肢がない事に理解さえ示さない。


言葉を失ったままのが萎びた眼差しで真鍋をとらえた。
乾いた唇で吐き出す。
あんたは何をどうしたいの。
とても疲れた声で。


只、愛したいのだと言えない理由は資格がないからだ。
まだ何事も生じていない二人には物語など存在せず、
幸せな結末なんてものを好きに模索するだけだ。




【ただ生きたくて⇒ なくした現実感、生への焦り】
の続き、というか数年後です(唐突に)
急に暗くなるのかよとビックリですが、
欝々と何年も思い続ける長ですし、
片や主人公酒浸りですので、妥当かと、、、

2016/07/25

NEO HIMEISM