想いに溺れて死ね








対峙した男はこうなる事を最初から知っていたようで、
物言わぬ癖に饒舌な眼差しでこちらを見据えている。
少しだけ居た堪れなくなったこちらは一寸足元を見つめ、思惑を改めた。
何の目的もなく行動は起こさないし、互いに其々の思惑は存在する。
心なんてなくなってしまえばいいのだと思ったのはこれで五回目で、
毎度毎度なくせていない事実に落胆する。
とても生き辛いからだ。



「…嘘吐きだよねェ、は」
「…」
「言ったじゃない」
「…何を?」



明け方前に部屋を出て、そのまま二度と戻らないつもりだった。
お楽しみの時間はとっくに終わり、
これからは全てが収束する詰まらない日々の始まり。
それにしても酷く風の強い日だ。
瞬きさえ奪う。



「これで二度目」
「…そうだったかしら」
「流石に二度目はね」
「…」



心を奪われたのはもうずっと昔の事で、
生まれてこの方、嘘しか吐いていなかった
その都度、適当な返事を返す。
そうして生きている。
いた。



だから目前の男にも適当な嘘を返していた。



「手に入れたものを手放すのは苦痛でね。
 そんなのは人それぞれかも知れないけど、俺にとってはそうなんだ。
 もう無理、あり得ない、考えられない。そんなのは我慢できない」
「そんな、夢見がちでもないでしょ」
「人の純情を弄んどいて、酷い言い草だ」



言葉でけん制しながら決められた距離を縮めないでいる。
彼のテリトリーに侵入したら最後、
思いに絡めとられ身動きが取れなくなる。
卑怯だとは思うが逃げる他ない。
この世に絶対などない。
どれだけ欲してもだ。
安心出来る場所もなく、
だからこうして根無し草のような生き方を選んだはずだ。



「!」
「よぉ、クソ女」
「伽羅…」
「逃がさないよ」
「貘、あんた、まさか」
「俺の前からは、二度と」



の存在により派生する
例えようのない飢えに苦しむのはもう限界で、
心を賭ける他、術はない。
そんな事は正しくなくともだ。



「厄介な奴に好かれたもんだな」



そう呟きながら、伽羅が間に立つ。
勝負の前からカリ梅を取り出した貘を見つめながら、
大よそ勝ち目のないそれを受ける他ない。
貘の提示した勝負は『鬼ごっこ』―――――
この伽羅相手にどこまで逃げる事が出来るのか分からないが、
こちらも心には埋まらない穴が開いているのだ。
貘の足元にカリ梅の袋が落ちた。
視線を上げる前に彼は梅を齧るはずなので、振り返らずに走り出す。




今月初更新
そして久々貘ちゃん
なんか、べたつく系貘ちゃん
この話、ずっと置いてて、
誰にするか決まらなかったんだ、、、

2016/08/14

NEO HIMEISM