何度読み返してもおとぎ話は


同じ過ちを繰り返す









この忙しい最中、一体全体何の用よ。


はそう言い無作法に入り込んだ。
相変わらず雑な動きをする女だ。優雅さは微塵もない。
そんな彼女だから、今まさに
死体がゴロゴロと転がっている室内にも驚かないわけだ。
よく目を凝らせば、彼女の指先も血に塗れている。
この女も今しがた命を奪ってきたに違いない。
似た輩だ。だから惹かれあう。



灰色の厚い雲が空中を埋め尽くし、昨晩から一層冷えが増した。
こんな時には何かが起こる。


「…座る場所もありゃしないわね」
「だってよ、高杉」
「うるせェよ」


呼び込んだ白夜叉は相変わらずの不穏な笑みでこちらを迎え、
鬼兵隊の頭はこちらを見る事もない。
何の為に呼び込みやがったと思うのだが、それも今更だ。
この男達はそういう生き物なのだ。


「珍しいじゃない、こんなメンツ」
「そう言われりゃ、そうだな」
「くだらねェ」
「何か用なの?」
「や、特に」
「あたし忙しいんだけど」


何食わぬ顔をし、毎度素知らぬ振りを決め込む。
腹の内は決して晒さず、誰もが己の目的の為、動くだけだ。
だから高杉はこちらを見ない。
その時も、いつも、それからも、ずっと。
高杉はこちらを見なかった。










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数日前から降り続く雨は止む気配もなく、気温だけを著しく下げた。
こんなに寒い日は客足も鈍るもので、
今日は早じまいしようかと思い始めた辺りだ。
邪魔するぜ。
雨に濡れた全蔵が駆け込んできた。


「早じまい出来なくなったじゃない」
「いや、あんたね。客、客よ、俺」
「何でそんなに濡れてんのよ」
「仕事帰りだからさ」
「何の仕事よ」
「えぇ?知りたい?」
「早く注文して」
「えぇー」


命をかけ、戦いに明け暮れていたあの頃からは
想像もつかないほど退屈な日々を過ごしている。
路地裏に構えたこの小さな店で日々の糧を得、細々と暮らす。
たったの一人で。


「しっかし、こりゃあ…貸し切り状態だな」
「一杯飲んだら帰っていいのよ?」
「俺、お客よ??」


たったの一人はとても淋しい。
淋しいが無くすより辛くなく、
こうして他愛もない会話の出来る相手で淋しさを誤魔化し生きている。



あの戦争は何もかもを壊した。
思いも、仲間も、人生も、何もかもすべてを。
そうして残った消し炭だけが未だこの町を彷徨うのだ。


「お」
「?」
「お客だ。折角二人っきりだったってのに」


全蔵の声に反応し振り返る。
外では未だ雨が降り続き、刻一刻と気温は下がり続ける。
眼差しの先に現れるのは鮮やかな華―――――


「…邪魔するぜ」
「…!」


全蔵はカウンターの一番手前に座っている。
そこが彼の定位置だからだ。
侵入した華は彼に一瞥をくれ、一番奥の席に陣取った。
十分な湿度と緊張感を従えて。


「…久しぶりじゃねェか、
「…そうね」
「こんな場所で隠居生活か。老け込むぜ」
「何の用なの」


会話など続ける気は毛頭なく、
只、動揺するこの心を押し殺す為、口を開いた。
慟哭は少なからず伝わっただろう。どちらにも。



華―――――この男、高杉の噂は嫌でも耳に入る。
あの頃を忘れる事無く、それがいい事なのか悪い事なのか、
それさえも今のには分からないまでも、命を奪い続けている。
こちらを見据える高杉の眼には何がどう映っているのだろう。
これまで一度として見なかった癖にだ。
何故、今になってこちらを見る。



十二分な湿度を連れ込んだ高杉のおかげで、
店内の空気は著しく重く濁ったままだ。
何故あの男が今更、顔を見せたのか。



こうなって思い返せば、確かにここ数日、
見知らぬ男達が店の周辺にいたような気もする。
内偵されていたという事か。
ならば、どの手のものに。
今更、討幕だ何だと厄介事に巻き込まれるつもりもないが、
高杉が絡むとなればそうも言ってはいられないだろう。
何故、今更。


「すんませーん、ワケあり気な感じのトコ申し訳ないんですけどぉ…」
「!」


この空気を切り裂いたのは空グラスを揺らす全蔵であり、
金縛りにあっていた身体と脳が一気に活性化した。
あわやこの男の雰囲気に飲まれる寸前だ。
背中にじっとりと汗をかいている。
興を削がれた高杉は視線を逸らした。
いつもの彼に戻ったという事だ。
そうして、釣りはいらねェと一言呟き、店を出て行った。










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「何?知り合い?」
「まぁね」
「昔の男とか」
「そんなんじゃないわよ」


あんた話聞いてたんじゃないの。
次のグラスを渡しながらそういえば、全蔵の指が触れる。
離さない。顔を上げた。


「…何よ」
「妬けるね」
「…」


あの頃は兎角、誰もが何もかもに飢えていて、
崇高な目的の為、様々なものを犠牲にした。
それは心だったり、理性だったり、思いだったりだ。
若さゆえの過ちだと笑えればいいのだろうが、
生憎そこまで吹っ切れちゃいない。
心の奥底がザワザワと蠢き気持ちが悪いのだ。



酒に酔い仕出かしたあの日の事を二人は覚えているのだろうか。
こちらの志を欠片も残さず打ち砕いた事を。


「心がないのね」
「…」
「あたしもそうだけど」


指先を握り返せば、酷い事言うねェ、
全蔵はそう言い笑った。




昨年の八月ぶりの更新、エリオです
忙しかった、的なよくある言い訳をします
今年一発目の更新は何故か銀魂なのですが
その理由はアニメを観ているからです
月並みな理由でスイマセン
しかし、今こうして初めて銀魂のアニメを観まして、
何と言うんですかねェ。。。
全蔵のビジュアルが一番好きです
しかし、私にとって全蔵はクソ書き難く、この有様
(そういえば続きます)

2017/02/18

NEO HIMEISM