本当はヒーローに



なりたかった










血生臭い砂埃の中、微動だにしない指先を見つめていた。
まるで動かない身体は凍えるほど寒く、
随分な量の血液が失われたのだろうと容易に予想出来た。
それに、背後から数人の遺体が重なっている。


恐らくこれが、ここが地獄と呼ばれる場所なのだろう。
いや、違う。ここもようやく地獄になったというべきか。


この世に生を受けた瞬間から地獄にいた。
物心がついた頃にはある程度想像がつき始め、
恐らく己が存在する場所、それこそが地獄になりえるのだと理解した。


命を喰らうだけの生き物。
そうする他、生きる術がなかったのは確かだ、口にした事はない。
誰かに理解して欲しいとも思わないし、理解されるとも思えない。


人は人を信じない。
詰まらない真似だ、それは。
そうやってこれまで生きてきた。


五歳で暗殺を生業とし、家畜のように過ごしてきた。
十の時には所謂育ての親を斬り付け逃げ出した。
彼は執拗にこちらを追ったが、どうにか逃げ続けた。
信念も信条もない只の獣としての人生だ。
それを変えたのは―――――



「…まだ生きてるか」
「高杉…」
「辛うじてってトコか。俺も、お前も」
「銀時は」
「…」



誰かの為に生きるなんて真似は似合わないと、
道理がないと分かっている。
反射的に口をついた名はこれまでの全てだ。
獣から人と成り、今この瞬間までの。



「さァな」
「…」
「なぁ、。見てみな。そこら一帯死体の山だ」



お前の言う地獄ってやつだな。



「…何が言いたいの」
「…」



刀を地に突き立て、両手で身体を支える。
痙攣の止まらない足を奮い立たせどうにか立ち上がった。
地獄。そこは只、地獄。
血と肉と油。勝手知ったるその地。
絶望のみがそこに存在し、誰もが逃れる術を持たない。
万物全てに平等に降り注ぐ運命と言う名の圧倒的な暴力。
生まれてこの方ずっと、右隣にいたものだ。



「銀時…」


思わず口をついた彼の名に動揺を覚える余裕すらない。
辺りを見回し捜しに行こうと思うが、
如何せん身体がいう事を聞かない。


あの男を最後に見たのはいつだ。
その時、彼はどんな顔をしていた?
思い出そうともがくが記憶は一切蘇らず、
二本の足で立ち続ける事も出来ない。


膝をついた瞬間、高杉の掌が視界を奪い、喉を掴まれる。
そのまま地面に叩き付けられた。



「…っ!!」
「いつまで腑抜けてやがる」
「…!」
「ここはどこだ?お前は誰だ?お前の側にいるのは誰だ?」
「やめ、」
「なぁ、。ここは地獄だ。お前に似合いの、ここが地獄だ」



だから俺はお前を選んだのだと、高杉は恐らくそう続ける。
二人目だ。同じ事を言ったのは。
育ての親であるあの男も同じ事を言っていた。
繰り返し繰り返し、気が触れるほど幾度も。
一歩踏み出せばそこから腐り、地獄が広がる。
どいつもこいつも、同じ事を言いやがる。


高杉越しに日が射し、眩くて目を開く事が出来ない。
まるで銀時のようだ。
銀時は光、少なくとも、こちらにとっては。



「野郎に何が出来る」
「…」
「碌々、目も開けられやしねェだろう。お前は」



光に焦がれるのはそんなにも罪か。
決してこの手に出来ないのだと、そんな事は分かっているのだ。
地獄から逃れる術はないと知りながらも。
だから生きる理由をあの男に託した。光に。
それなのに、



「だったら俺に尽くせ、俺に従え。俺がお前に何もかもくれてやる」



必死に焦がれる様相で、この男はそう囁くのだ。





二つ目も銀魂かよと
本当は銀時か全蔵のエロい話を書きたいんですけど
とりあえず全蔵は無理っぽいので
最初の更新分の次話くらいでいく予定です
今回の話はすごくひさびさの高杉メイン
高杉の名前を間違っていた私なのです
晋助⇒◎
晋介⇒×
今年気づきました
気づいた時は本当死にたかったです


2017/02/18

NEO HIMEISM