そんなに愛してほしいなら





いますぐ殺してあげるよ










振り返る間のコンマ数秒だ。
別に来たくもない辺境の地に降り立ち、
事をすませようと一歩踏み出したその瞬間。
視界の端に過去が見えた気がし、気づけば走り出していた。


たった数秒で全身の毛が総立ち、生命の危機さえ覚える。
この感触は随分久々なもので、
随分と平和ボケしていたものだなと、己の危機管理能力の反省さえした。


まさかこんな辺境の地で死にもの狂いになるとは思わず、
地理も分からないまま闇雲に駆け出している。
ターミナルを飛び出し気づいたのだが、
この星には青ざめた太陽しか存在しないらしい。
月明かりとは又違う、青白く弱い日がじっとりと地面を照らしている。
だからより一層、絶望感は増した。
この星では逃げ切る事は出来ない。


心臓が爆発する寸前、どうにか廃墟に転がり込んだ。
これは、もう余りにも―――――



「いよぉ」
「!!」
「こりゃあ随分、久々じゃあねェか」


吐いた息を飲む事も出来ず、一歩踏み出す前に左手を掴まれた。
どうにか振り払おうともがくが微動だにせず、腹を括る他なくなった。
あんな真似をして、生かされるとは思わない。
愛を、心を。
全てを踏みにじった自分が。



「安心しなぁ…俺だ」
「…阿伏兎」
「あんたもあの人も、何もそんなに焦らなくてもいいじゃねェか」
「離して、お願い。阿伏兎」
「そんな目で見るもんじゃねェよ、



興奮しちまうと続けた阿伏兎は、取って喰いやしねェぜと笑った。
こちらはまるで笑えないのだが。
だがしかし、阿伏兎は掴んだ腕を離すつもりはなさそうだし、
ここで揉めても死ぬ可能性は限りなく高い。
四面楚歌というやつだ。
この男の目的は分からないが、一先ず息を整え、
これからの身の振りを考えよう。



「いやぁ、参ったよ。本当。
 二人とも急に走り出しちゃうもんだから、こっちの予定台無し」
「…神威はどこにいるの」
「こっちが聞きたいねェ、そんな事は」
「あいつ、あたしの事」
「いやぁ、殺したがってるねェ」
「…!」
「そんなの、聞く前に分かってただろ」
「だったら、その手を」
「昔話でも聞かせてくれよ」



うちの団長の心を捕らえた理由が知りたいのだと、阿伏兎は言う。
聞けば聞くほど絶望感が増す。


まだ忘れていないのか。
こんな、下らない自分なんてものの事を。


観念したは壁に背をつけ座り込む。
その隣に阿伏兎も座った。









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何もかもを捨て、互いに互いしかいないのだと思っていた。
何れ切り捨てられるとは分かっていて尚だ。
時に感情が突っ走る性質だと己の事は理解出来ている。


では、神威はどうだ。
戦いばかりに特化したこの男は何れ戻らなくなるだろう。
そんな事は最初から分かっていたはずだ。



「…それ、何?」
「いいクスリ」
「そういうの、嫌いなんじゃなかったの」
「貰ったんだ。ほら」



にもあげる。
神威はそう言い、錠剤とグラスを手渡す。



「こんなの飲んだって、何も変わんないわよ」
「知ってる」
「だったら、どうして」
「くだらないから」



俺もお前も。



「何よ、あんた。心中でもしようっての」
「ふふ」



中々飲み干さないに業を煮やし、
神威が錠剤を奪い取り口に含んだ。
間髪入れず重なる唇。
舌が捻じ込まれ、先程の錠剤が送り込まれる。


この日が来る事は予想していた。
こんな日が何れ訪れるだろうと、知っていたはずだ。


己の欲求に呆れるほど素直なこの男は、
何も失わない、何も捨てない。誰にも奪わせない。
一度手に入れたものは絶対に手放さない。


そんな事は分かり切っていた。
だが。



「―――――死ねなかったか」
「違う、死にたくなかったのよ」
「そりゃあ、そうだ」
「普通に考えればそうよ。
 別れる代わりに死ぬだなんて、
 そんなのどう考えてもマトモじゃない。
今だってそう思うし、間違った事をしただなんて思ってないわ」
「しっかし、よくも生き延びたな」
「偶々、偶々よ」



クスリを吐き出し、神威を押しのけた。
彼は不思議とされるがままで、あの笑顔のままこちらを見ていた。
試されたのか、どうなのか。


こうなってしまえば最早関係なく、痺れる呼吸器をそのままに、
窓を突き破り外へ転がり出たは、
それからずっと逃げ続ける事となる。



「あの時は真昼間、随分日差しの強い日だったから」
「…」
「もういいでしょう、離して」
「俺たちは何が何でも、今日中に発たなきゃならねェ。
 死ぬ気で逃げな、



日付が変わったらお前の勝ちだと言う阿伏兎の背後、
壁に亀裂が入る瞬間に逃げ出した。


あの時含まされた錠剤は只のタブレットだった。
口内に滑り込んできた瞬間に気づいた。
それと共に、思惑も。


あの男は理由が欲しかっただけだ。
を愛し続ける理由を。
だからこうして追い詰める、永遠に追い続ける。
どうやら恐らく、



「…神威!!」
!」



それが彼の愛の形なのだ。




銀魂祭です
初、神威そして阿伏兎
阿伏兎を書きたいが為に神威を書きました
阿伏兎もいいよね、、、



2017/2/20

NEO HIMEISM