「おやぁ?さんじゃねェですかィ」
「…嫌だ、あんた。何でこんなとこにいるのよ」
「そんなのはこっちの台詞でさァ」
「…あんただけ?」
「そうでさァ」
「あ、そう」
「安心しましたかィ」
平然とした顔を晒したままそう言う総悟を見上げ、
面倒な事になったと溜息を吐いた。
よりにもよってこんな姿を見られた相手がこいつかという話だ。
一つでも選択肢を誤ると随分厄介な事になる。
「…何?」
「何ですかィ」
「余計な事言うなって、口止めの一つでもしたいトコなんだけど…」
「土方さん!こっちでさァ!」
「!!!」
「落ち着け落ち着け」
嘘でさァ。
踵を返し逃げようとしたの襟首を捕まえそう言う。
「土方さんなら今日はオフでさァ」
「あんった…!」
「あんたを待ち惚けてるんじゃねェですかィ」
こんなとこで他の男に抱かれてたとも知らずに。
珍しく一歩踏み込んできたものだと思った。
これまで自分から誘ってくる事はなかったにも関わらず、
どんなタイミングだか今回は奮起したらしい。
時間があればね。
そう曖昧に答えたが行くつもりもない。
十四郎の事は嫌いではない。
「こいつァ土方さんが余りにも哀れで、流石に涙が出そうでさァ」
「やめて」
元々、そういう性質なのだ。
身持ちは軽く、性質は軽薄。
欲求を抑える事も出来ないし、即物的。
基本的に男に対しては一見さんで、
時折似た性質の奴と数回身を交わす。
十四郎と初めて出会ったのも猟場だった。
カウンターの一番奥の席で一人陣取り獲物を狙っていれば、
酷く酔った男が隣に座った。
随分酔っていた男は自己紹介もそこそこに腕を伸ばしてきたのだし、
それを断る道理もない。待っていたのだ。
まんまとその手中に入り込み、とりあえずの逢瀬を楽しんだ。
「土方さんも随分趣味が悪ィ、こんな女を気に入るなんざ」
翌朝、激しい二日酔いの状態で目覚めたらしい男は、
こちらが目覚めるまで、まんじりともせず待っていたらしい。
寝ぼけ眼のまま、首を垂れ謝る男を見た気がする。
何を謝っているのかも分からず、とりあえず話を終わらせ別れた。
それからだ。
「俺が野郎の変わりに言ってやるぜ」
「何よ」
「おい、アバズレ。こんな所で何してやがった」
「ぶっ殺すわよ」
「よし、威力業務妨害。現行犯逮捕」
「!!!」
総悟が踏み込んで来たのは場末の飲み屋だった。
違法賭博や売春の斡旋を行っているという噂の絶えないその店。
そんな場所に何故がいたかといえば、
それは―――――
「天下の見廻組さんが現行犯逮捕たァ、笑えますぜィ」
「意味ないって事くらい、分かってるのよね?」
「さァ」
「内偵の邪魔したら、そっちこそ只じゃすまないわよ」
「うるせェ女だな、さっさと入れ」
「沖田テメー!」
騒ぎ立てるをパトカーに蹴り入れる。
こいつは面白くなってきやがった。
「あんたが見廻組の内偵って事は俺しか知らねェ、今のところはな」
「で、何が言いたいの」
「ばらされたくなけりゃ、分かるよな」
「はっ。言っとくけど、口は割らないわよ」
「こっ酷く振ってくだせェ」
「え?」
「土方さんを、こっ酷く振ってくだせェ」
俺が見たいんで。
総悟はそう言い、にっこりと笑ったのだった。
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連れて行かれたのは真選組の屯所だった。
夜半過ぎという時間も手伝い、
夜勤の数名しか表に出てはいなかったが、
沖田が女を連れ込んで来やがったと少々の騒ぎとなった。
それにしても、こいつは面倒な事になった。
「おい、総悟!こいつは一体―――――」
「捕り物でさァ、近藤さん」
「捕り物ってお前、こんな時間に…あれ?さん?」
「ハハ…お邪魔してます…」
「いやはやこんなむさ苦しい所に、って、総悟ー!?」
「取調室、使いやすぜ」
「取調!?何で!?誤認逮捕!?総悟ー!?」
当然訳の分からない近藤は一人大慌てだが、
何も言えず取調室に入る他、術がない。
素性をばらされる事だけは避けなければならない。
そんな事態になれば、文字通り只ではすまないだろう。
誰にも知られず、目前の男にも一切悟られず、
迅速に職務へ戻らなければならない。
定時報告までは大体五時間弱。
少なくともそれまでには戻らなければ、事態は更に悪化する。
「座れィ」
「…」
「明け方には野郎も戻らァ、ここで待ってもらいやすぜ」
どっかりと座り込んだ沖田は、
机に足を乗せアイマスクを装着した。
タイムリミットまでは五時間弱―――――
ついったに書いてた、ヤリマンと土方さんの話のはずが
土方さん一言も、いや、まったく出て来やしないという
驚異の展開に書いた本人が一番驚いている
この話、大体の内容をもう作ってるんですけど
酷い話になること請け合いです
事前に通達しておきます
ひどいです
2017/02/23
NEO HIMEISM
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