だれかがあなたを殺すとしたら













―――――あいつは、おまえのことをころすのだとおもう。



と出会ったのは随分と昔の事だ。
恩人が死に、心を殺し、闇雲に生きていたあのクソのような時代。
まるで死人のように生きていたあの頃。



彼女はとある傭兵部隊に所属するフリーランスの女だった。
丁度ドフラミンゴがその手の部隊を作ろうと画策していた時期であり、
大々的に募集をかけていたのだ。
続々と現れる猛者たちの中、一際若く美しいは目立っていた。



「相変わらず無愛想ねぇ、あんた」
「うるせェよ」
「折角、年齢も近いんだしさぁ」



仲良くしたいのだと、屈託なくは言う。
そんなに心を動かされるのは時間の問題だった。
だけれど知っていた。
心を動かされた事を知られてはならない。決して。
だからわざと冷たく接していたのに。



「…フフッ」



いつ、どのタイミングでかは分からないが知れた。
あの男にだ。



あの男―――――
ドフラミンゴは言葉巧みにへ近づき、完璧に接した。
ありとあらゆる融通を利かせ、手籠めにした。
実際のところは分からないが、
毎度毎度上機嫌なが聞かせてくれたのだ。
彼女のいう事が事実であれば、そうなる。



彼とどこで何をした、どんなに高価な贈り物を貰ったか。
次の仕事は彼と同行なの。
エトセトラ、エトセトラ。



ドフラミンゴがどういうつもりなのかは分からなかったが、
喜ぶの顔を見る事は悪くなかった。
辛いが、悪くは。
決して、それだけは。



彼女の異変に気付いたのは、一月ほど経過した頃か。
いやにぎらつく眼差しと、乾いた唇。
喜怒哀楽が激しくなり、何かを見ていた。
彼女の周りには常にドフラミンゴ達がいた為、目立つ事はなかった。
だから気が付いていたのはきっとロー、一人だけだ。



あれだけ頻繁に話をしに来ていた彼女はまったく姿を見せなくなり、
ドフラミンゴ付きの危険な仕事をしているという噂を耳にするようになった。










■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■









完全な洗脳状態にあったが、
辛うじて僅かばかりの理性が残っていた。
それがいいとはいわない。
とっくに失っていた方が楽だったのかも知れない。
生活の全てをドフラミンゴが握っているようなものだ。
何をするにも、それこそ息をするのでさえも彼の許可がいる。



最初はきっと酒に混ぜてあった。
薬物の類には拒否反応を示していたはずで、
これまでの生活でも盛られかける事はあったが
どうにか逃げきる事が出来ていたというのに。



無味無臭のそれに食われ、いつしか自由はなくなった。
それだけを求める様に脳は作り替えられ、
己の意思とは関係なく危険な任務を任されるようになる。
当初は酷く甘やかしてきた男達は身体ばかりを貪るようになり、
その報酬として粗悪な薬を与えられるようになった。



任務を終えた時にだけドフラミンゴは姿を現し、
よくやったと上物の薬を寄越す。
外界との接触は限りなく断たれ、助けを呼ぶ事も出来ない。



このままでは駄目だと頭では分かっているのだが、
身体がいう事をきかないのだ。
指先は震え吐き気と寒気が止まらず、苦しくて眠る事も出来ない。
このままのたれ死ぬのかと思っていた。



だから、散々慰み者にされた夜、逃げ出した。
酷い嵐の夜だった。



薬の切れ目には動く事も出来ない為、
粗悪でも体内に摂取できるだけの薬が必要だった。
逃走防止の為、上物を寄越す際は
ドフラミンゴの目前で摂取しなければならず、
その後は薬の切れ目まで彼に抱かれる為隙が無い。



「ドフィ!!」
「何だ、うるせェな」
が逃げやがった!!」



酷い嵐の夜、どうにか動く身体を引き摺り逃げ出した。
目的地などなく、助かる見込みもない。
只、ここから逃げ出したかった。
逃げ出した先で死んでも構わなかった。



「追いかけるか!?」
「…いいや、フフ…」
「…」
「なァ、おい、ロー」
「…」
「あんな身体じゃあロクに戦えやしねェ。
 いっそ、お前の手で殺してやった方があいつの為なんじゃあねェのか?」
「…!」



全てを知った上で至極楽しそうに笑うドフラミンゴを見ていた。
無論、おくびにも出さずにだ。
確かにこの男の言う通りで、
あんな状態で逃げ出しても生存率は限りなく低い。
半ば死んでいるようなものだ。
こちらが、少しでも愛したばかりに。



目前の悪辣な男は、大事なものを己が手で殺す思いを共有しろと囁く。
同じ苦しみを味わえと―――――



これは、禊なのだろうか。



【世界をつかむ事は出来たのか⇒
全てを捨てたら命だけが残りました⇒
傷跡に爪を立てるとよろこぶきみ(に重ねたぼく)】
の続きです(一年振りに)
ドフィとローの過去を聞きかじった為の更新です
終わらせる予定!

2017/02/27

NEO HIMEISM