天使の正しくない作り方








ハッと目が覚めれば、
寝入ってからまだ小一時間しか経過していない事を知る。
何だかとても嫌な夢を見ていたような気がしたのだけれど、
毎度ながらまったく覚えていないのだ。



暗い室内を見回し、どうにか眼が慣れるのを待つ。
隣で寝息を立てているメメに視線を落とし、
毎度の亡霊と戦う準備をした。



今は偶々この男と一緒にいるだけだ。
どちらかが選んだのかどうかは分からない。
この男が請け負った仕事にの力が必要だっただけの話で、
限定された逢瀬はカウントされない。



簡単に言えば、イレギュラーな事態だが、
対応は容易だという事だ。
何でも知っている彼女にはとっくに知れているだろう。



「…」
「…」



この男に憑りつく怪異を、本人は知らない。
がいてこそ、その怪異は発動するからだ。
ゆっくりと指先を伸ばし、逆十字のピアスに触れる。
その刹那、蠢く黒い影。



【…性懲りもないのね】
「あんたもしつこいわね」
【そんなにこの男がいいの?】
「そういうわけじゃないけど」
【止した方がいいんじゃない、人の心なんてわからない男よ】
「…知ってる」
【今は偶々あんたといるから、あんたと寝てるってだけで、
 居付かない男にロクな奴はいないわよ】



これは自身の亡霊だ。
自身の亡霊。
もう少し詳しく言えば、死に別れた双子の妹だ。



彼女は死に、憑りついた。
式神の様に扱いが良ければよかったのだが、
生憎、呪いに近いものだ。
こうして言葉を交わせるようになっただけマシで、
メメを介す前は只々、足だけを引っ張られていた。
初めて言葉を交わしたのは



こうやってメメと寝た後の冷えた時間帯だ。
ふと目が覚め、ぼんやりと男を眺めていれば、
黒い影が蠢きだし、細い腕がにゅっと伸びた。
相当に驚いた。



【あ、起きちゃう】
「え」
【じゃあね、



憑り殺す事が出来ないらしく、
メメを介した時にだけこうして会話を楽しむ事が出来る。
彼が寝ている間だけだ。
まるで生前と変わらないその口調に、複雑な気持ちを隠せない。



「…
「起こしちゃった?」
「…何かいい事でも、あったのかい?」
「!」
「やけに、ご機嫌だ」



彼は目を閉じたままそう言い、こちらに向かい腕を伸ばした。


メメが関与しているのか否かで
彼に対する印象がガラリと変わりますね
無論あたし好みは関与有です

2017/03/13

水珠