いよいよこの局面だ。
これまで必死に避けてきたというのに、
あの男が零號の称号を受けると知り、終焉が近づいたのだと知った。
彼の我儘を一心に受け止め、やれやれと面倒ながら叶えた日々も終わるのだ。
この話を耳にしたのは、が半年に渡る遠征より戻った当日の事だ。
ややこしい勝負が拗れ、債権の回収を一手に引き受けざるを得なかったわけだ。
途中でそもそもの立会人は死ぬわ、
思ったよりも騒動が長引き正直なところ諦めたくなったりするわ、
一言でいうと大変だった。
こんな仕事を押し付けやがってと、文句の一つでも言ってやりたかったくらいだ。
出迎えた丈一に散々愚痴っていれば、前述の事を告げられた。
彼は彼で警告のつもりで告げたのだろうが、
二人ともこれがどういう事なのかは理解しているわけだ。
困ったなと思わず呟けば、
今度はもっと遠方にお前を飛ばす算段は出来ていると告げられ、愕然とした。
又、他の国に飛ばされるのか。
もうこの国には戻って来れないという事か。
「や、ちょっと…」
「いいだろ、別に」
「いや、いや丈一さん」
「どうせ天涯孤独なんだし」
「丈一さん?」
「今回ばかりは事が事だからな」
という事だから、即効で飛べと渡されたチケットの行先は南米。
とある麻薬カルデルを潰して来いと言う嘘みたいな指示だ。
少しは休みをくれ、だとか、一人で出来るのかしら、だとか。
そんなの言葉にまともな返事一つ寄越さず、
横付けしてきた黒塗りのベンツに押し込まれた。
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空港まで向かう車中は静かだ。
丈一に渡されたチケットを見つめ、これからの事を考える。
もうこの国に戻る事はないのだろうか。
そもそも、麻薬カルデルを殲滅する為の準備は出来ているのか
(この指令自体が能輪辺りの策略で、こちらを屠る事が目的ではないのか?)
メンバーは決まっているのか。
不安要素は山ほどあるのだが、考える気分ではない。
今は―――――
「何を考える必要がある?」
「…!!」
「今この車中には俺とお前、二人だけだぞ」
「撻…」
撻器さま。
絞り出すように発された声は、どうにか名を呟く事が出来た。
辛うじてというやつだ。
丈一の先手も、能輪の先手も意味がなく、やはり彼は数歩先を行く。
「…何をなさってるんですか」
「うん?何をって…見ればわかるだろう、運転してるんだ、俺は」
俺は自由だからな。
「零號に、なられたそうで」
「お前は、まだ立会人になるつもりはないんだろうな」
「柄じゃ、ないですし」
「ふうん…」
前触れなくハンドルを切られ、僅かだが身体が浮いた。
ルームミラー越しに視線がかち合う。
挑発的な、あの、いつもの目。
背中がドアに打ち付けられる。
こうなる事を誰もが恐れていた。
無論、自身も。
「撻器さま!!」
「〜♪」
「ちょっと、運転を、」
望んでこの距離感を保っていたはずだ。
彼は求める。
彼は当然の権利で一方的に求め続ける。
これまではお館様という建前でどうにか逃げ回る事が出来た。
そのような立場ではないという、あれだ。
しかし今回、その建前は崩された。
「なぁ、。これでもう、何一つ問題はないぞ」
「ちょっ、ハンドルを」
「俺とお前の間を阻むものは何もなくなった」
どうする。
「何をです、何を。何もどうにもしませんよ、私は」
「そうか」
「…!!」
ならばその気にさせるまでだと言い、強くブレーキを踏み込んだ。
浮かんだ身体が前方に引き寄せられ、
フロントガラスに叩き付けられる前に撻器の腕が伸びた。
こんな展開はとっくに読めていて、
この車中から逃げる事が出来ない事も分かっていた。
心を強く持て、だなんて戯言だ。
そんなものは強く保てやしない。
こうして言葉を交わせば交わすほど惹かれる。
ざわめきが踊り出す。
こんな男を目の前にして、愛さないわけがない。
愛せない道理がないのだ。
それでも。
立場が、世界がそれをよしとしない。理が。
撻器の指先を振り払い、反動をつけフロントガラスに突っ込む。
心の行き場が余りにもなく、無意識に助けを求めていた。
この主人公も例に漏れず丈夫(身体が)
久々の撻器さまなんですが、好き過ぎて迷走
基本的にとても好きなキャラに関しては迷走します
大事にしすぎるのかな、、、
主人公でなく、好きなキャラの方を
2017/03/18