バケツをひっくり返したような激しい雨が連日降り続き、
足止めを喰らっていた。
この港町は寂れており、特に出かける場所もない。
ストレスが溜まっていた。
船の様子を見て来ると告げ、
キラーが出て行ったのが三十分ほど前の事だ。
雨風は勢いを増し、収まる気配すら見せない。
まさかあいつが飛ばされやしねェだろうが、
と少しだけ心配をし始めた辺り。
宿のドアが大きな音と共に開いた。
「キッド!!」
「どうした、キラー!!」
「だ!」
「は?」
「だよ、!」
「??」
ずぶ濡れのキラーが抱えてきたのは、意識のない女だった。
やせ衰え、死人にようなその姿。
「…じゃねェか!!」
「だから、さっきからそう言ってたろう」
「何で?は?えっ?」
「船着き場に倒れてたんだよ。最初はだって気づかなかったんだけどな」
「しっかし…」
何年ぶりだよと呟いた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
とても怖い夢を見ていた。
その時には、それが夢だと分かっていなかった為、
明ける事のない現実の続きだと思っていた。
どうにか逃げ出したと思っていたが、
それさえも彼の手の内であり、
ほっと一息ついた瞬間に拘束される。
その繰り返し。
絶望に叩き落されたその時の、あの男の見せる笑み。
「―――――!!!」
「あ」
「…っ」
「おい、キッド」
男の長い指先がこちらを捕獲すべく伸ばされた瞬間、目が覚めた。
心臓は鼓動を増し、全身に冷や汗をかいていた。
まず目に入ったのは知らない天井で、次にマスク。
奇抜な姿の、
「…えっ?」
「相変わらずしぶとい女だぜ」
「キッド…?」
「久しぶりだな、」
「キラー…」
反射的に飛び起きたかったが、
全身が引き裂かれそうな程痛んでいる為、動けない。
頭の中はとても混乱しているし、目前には旧友の姿がある。
何の前触れもなく。
分からない。
これはもうまったく、何もかもが理解出来ないのだが、
とりあえず無事に逃げおおせたという事か。
「えっ…何で」
「お前、行き倒れてたんだぞ」
「あぁ」
「何やってやがんだ、バカが」
「こっちこそ聞きたいくらいだ。何があった、」
「―――――」
何もかもがあった。
自分自身の何もかもがそこにあり、置き去られた。
あの遠い国で共に過ごし、海に出た。
二人は海賊になる為に、は自由になる為に。
一度堰を切った思いは留まる事を知らず、涙さえも伴う。
あの男に出会った事、まんまとその罠に嵌った事。
この身体は薬に侵されている事。
全て話した。
情けないと笑って欲しくて。
この熱に浮かされたような悪夢のような日々を洗いざらい吐き出す。
言葉に変えれば変える程、余りにも馬鹿馬鹿しくて虚しくて、
自身の間抜けさに吐き気がする。
キラーは何も言わず只、話を聞いていた。
「…」
「…」
「おい」
「…」
「別に行く宛もねェんだろ、お前」
「…」
「なら、好きなだけここにいろ」
「違いない」
こちらを見ないキッドと、表情の見えないキラーは
それだけを言うと部屋を出て行った。
ここのキッドとキラーは
本当にいい子達だわぁ〜〜
と自画自賛
好青年過ぎるだろ…!
2017/03/18
NEO HIMEISM
|