紳士的な殺戮者








先程から酒に酔わされた全蔵は延々と戯言を呟き続けている。
特に珍しい事象ではない。酒の席ではよくある事だ。
日によっては自分自身もそうなのかも知れない。
記憶が残っていないだけで、
同じような戯言を囁いていたのかも知れない。



そう考えれば気も軽くなるもので、
吹けば飛ぶような愛情を山ほど頂戴している最中だ。



俺ァお前の事だったら何だって知ってんだ、なぁ、
お前がどんなにいい女なのか、どれだけの良心なのか。
毎朝毎朝、お前をものにしてやるんだって思うんだぜ、
なぁ、なぁ、。聞いてんのか?



こちらの言葉は耳に届かない癖に、
よくもそう言いたい事が溢れるものだ。



「酔い過ぎ」
「ばっか、お前、おい」
「呂律も回ってないじゃない」
「どこ行くのよ、ちょっと」



どこにも行くなと続け、全蔵は手首を掴んだ。
指先まで燃えるように熱い。
触れられる先から火傷しそうだ。
少しだけ戸惑う。
この男は、こうも簡単に私に触れていたっけ。



「どうしたのよ、全蔵」
「どうもこうも」
「いやに深酒ね、今夜は」
「アンタも飲みな、
「何するつもりよ」
「何も」



何もする気はないのだと呟く。



「あたし、そろそろ帰らないと」
「…」
「離して、ねぇ」
「…



俺はお前が知ってるよりいい男なんだぜと前置きし、
だからどこにも行くなと続けた。
お前には俺がいるって事で、どうかな。
やけに食い下がる姿に一抹の不安を覚える。
全蔵の指先は熱い。



未だ離れない。
絡みつく。
何故。



「…何をしたの」
「…いいじゃない、。お前には俺がいるって事で」
「全蔵」
「彼は今夜、どこにいると思う」
「何を」



何をしたの。



「お前の男は重罪を犯した。少なくとも命は失う。
 それで償えるかどうかは別だ」
「…」
「だから、俺はさっきから言ってる」



お前には俺がいるって言い続けてる。
これも贖罪になるかどうかは分からない。
予想もしない不幸を齎すのは忍びの仕事だ。



言葉を失ったの指先は震えている。
強く握り震えを殺すが、心までは届かないようで、
一気に醒めゆく酔いだけがこの身体を現実に繋いでいた。





全蔵が好きなんです(断言)
彼は忍びなので、悪い事をしているのです
主人公の男は(恐らく)さっちゃん辺りが始末してます


2017/03/24

NEO HIMEISM