業務中に限っては何も考えなくていい分、随分楽だ。
基本的に立場は小間使いが多い。
自身が立ち会う事はない為、
様々な立会人のフォローが主となる。
この立場を求めたのは自分自身だ。
元々目立つ真似は好きでない。
ここ最近は特にだ。
周囲の目も気になるし、
組織は組織での動向に逐一目を光らせている。
随分と厄介な状況下に置かれてしまったが仕方がない。
自分でそれを選んだ。
置いて行かれた事実を悔やむより、前向きな選択肢を選んだだけだ。
本音は曖昧に濁し、酒は断つ。
いつあの男が侵入してもいいように部屋は可能な限り綺麗に保つ。
それ以外の時間は仕事に費やした。
伽羅が姿を晦ましたのはもう随分前の話だ。
組織自体が殺気立ち、その珍しい事態に沸いた。
簡単な尋問を受けたはそれなりに応え、
己が受ける猜疑を受け止めた。
疑いを逸らすには忘却を使う。
考える時間さえ持てないほど忙しく時間を使い果たす。
「おい、」
「何?」
「今日、行くか?」
「えぇ?」
「たまには付き合えよ」
「アンタたち、酒癖悪いからさ…」
迷惑なのよねと嫌がるを捕まえ、強引に盛り場へ向かう。
比較的仲良くしている門倉を筆頭に彼の部下たちと散々飲み明かし、
毎日怯える夜の襲来さえ忘れた。
すっかり慣れたはずの帰り道に足音だけを残し、
辛うじて残った僅かな意識で彷徨う。
いつでも目を閉じればあの男が現れそうで、
そんな夢だけは望まないでいた。
縋る他なくなるからだ。
そんな憐れな生き方だけは選べず、それなのに何故夢を見る。
思いもよらないタイミングであの男は夢に出て来る。
夢の中でも言葉少なく。
そして迎える明け方、目覚め。
ひとりきりの室内を見渡し、当たり前だと涙を流すのだ。
だから忙しなく生きる。
考える暇があってはいけない。
何かを考える暇もないほど、忙しく生きていかなければならない。
立ち止まってしまうとすぐさま、孤独に取り込まれる。
それが分かっているからだ。
「…おい」
「!」
「危機感がねェ女だぜ」
「あー…」
これって夢なの。
呟く。
「大して飲めねェ癖に、何してやがる」
「ずるいなぁ、本当」
「あ?」
「ずるいよ、伽羅は」
腕を伸ばし触れる事の出来る距離に立った男は、
呆れたように笑っている。
夢の中では決して触れる事の出来なかった身体に指先を近づける。
触れる前に掴まれた手首、呆気なく引き寄せられた身体。
どこにも逃げられない身体は伽羅に抱き竦められ、
行き場さえ失くしていた。
伽羅さんでした
何か、不倫してる話かよと間違いそうですけど
伽羅さんが神出鬼没なので
(しかも見つかったら殺し合いになるので)
待たざるを得ないという話です
誰も幸せにならない
2017/04/03
NEO HIMEISM
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