それでぼくも殺すのですか














「…お前、何やってんの?」
「キッド」
「いや、もう聞きたくもねェんだが、何やってんだよ」
「待ってたんだけど」
「いや、だから。何で?」
「まぁ、いいじゃないか。キッド。とりあえず中に入ろう」
「よくねェから!何もよくねェから!」
「それにしても。お前、随分傷だらけじゃないか」



人様の船、その甲板に座り込んでいたを見つけたわけだ。
単なる侵入者であれば叩き出すところだが、
じっと座り込んでいた不審者はであり、
多少悩みながらも声をかけた。



顔を上げたは左目の周囲は化粧でなく赤黒く腫れ、
口の端は深く切れていた。
そういう意味での何をしているのかという問いかけだったが
無論、には伝わらない。
そもそも、この女には基本的に話が通用しない
(根気よく会話が続くのはキラーくらいのものだ)



「あたし最近、新しく付き合い始めた人がいるんだけど」
「はぁ」
「何かね、その人すっごいあたしの事ほめちぎってくれてて」
「はぁ」
「もうね、毒なんだって」
「はぁ?」
「あたしは猛毒なんだって」
「はぁ…」
「で、あたしの毒にあたるんだって」
「…」
「そしたら、すっごい凶暴になって、殴りかかって来るの」



うんざりする展開の内容だ。
こういう展開は割と頻繁に訪れる。
に限っては。



この女は、まず美しさで虜にし、次に破綻した性格で蹂躙する。
相手が気をおかしくするのも珍しくなく、
更に性質が悪いのは、その事を自身が
おかしいと思っていないところだ。
それが愛だと信じて疑わない。



「殴られたのか、
「そう」
「随分な顔だな」
「そう?」
「ボッコボコじゃねェか、お前」



殴られ倒して死ぬつもりが、生憎随分と強靭な肉体の為、
相手の方が先に飽きた。
皮膚は裂け血は出るが、そんな痛みはとうに慣れたものだし、
何ら特別ではない。



そこでようやく気づく。
彼は、運命の人ではない。



「ああ〜〜〜嫌だ嫌だ、気持ち悪ィ!」
「キッド!そんな事を言うもんじゃない」
「気持ち悪ィだろ、何だよその話!」
「で、殺しちゃってさ」
「!!」
「追われてここに来たんだけど」



匿ってくれるわよね。
は平然とそう言うわけで、毎度毎度ながら、
この女は厄介事しか持ち込まないとキッドはため息を吐く事になる。
両腕の痛々しい傷は、死にもの狂いで抵抗された痕だ。
抵抗した傷ではなく。



「何で追われてんだよ、お前…」
「海軍だったから」
「あ?」
「あの男、海軍だったのよ。殺した後に気づいたわ」
「お前、追われてるって…」
「だから」



海軍よ、海軍。
相手を選びもしないこの女に説教を垂れる気すら起きない。
疲れたから眠りたいと言い退け、勝手に部屋を出て行ったは、
恐らくどちらかの寝室を浸食する。
それも毎度の展開だ。







キッドとキラーの恋にならない話です
うちのサイトでは割とあるパターンの話です
主人公がエキセントリック

2017/04/08

NEO HIMEISM